4月某日
桐野夏生が月刊文藝春秋に連載(2014年11月号から2016年3月号)していた「夜の谷を行く」が単行本となって出版された。新聞広告に出ていたので早速、上野駅構内の書店、ブックエクスプレスで購入する。1972年の連合赤軍事件で逮捕、有罪判決を受けた主人公、西田啓子の40年後を描いたもの。西田啓子は恐らく架空の人物だが、主犯で逮捕後に東京拘置所で自殺した森恒夫、死刑判決が出た後、病死した永田洋子などはすべて実名である。啓子は刑期を終えた後、小さな学習塾を経営していたが数年前に塾を閉鎖、今は年金と貯金を取り崩して生活している。美容院を経営する妹の和子やその娘との啓子の過去を巡るトラブルが前半の主なストーリー。後半は一緒に連合赤軍の山岳ベースから逃亡した君塚佐知子や元夫の久間との再会を軸にストーリーは進む。その合間に山岳ベースでの生活やリンチの場面が回想される。連合赤軍の取材を続けているフリーライターの古市のことを啓子は好ましい青年と感じ、一緒に現在の山岳ベースを見に行くことにする。山の中で古市から驚くべき過去を聞かされる啓子。ラストの「ふと気が付くと、山は恐ろしいほどの命の気配に満ちていた。蝉しぐれ、虫の羽音、せせらぎ。啓子は目を閉じてその中に浸ろうとした」という文章は事件を浄化させるがごとく美しい。
4月某日
川越の尚美大学に総合政策学部の高橋幸裕専任講師をSCNの高本代表理事のお供で訪問。帰りに池袋で下車。前にHCMの大橋社長にご馳走になった「鳥定」へ行く。ここは昭和レトロな店で、バックに流される音楽は昭和の懐かしい歌謡曲。高本代表とは珍しくこの頃の政治状況について語り合った。
4月某日
出勤は週に3日くらいに止めようと思い今日は休み。10時頃起床、11時頃朝昼兼用の食事。2時頃まで家にいて2時過ぎに図書館、花見を兼ねて手賀沼のほとりを散策。4時半に駅前の「七輪」へ。今日は5時から元年住協の林さんと呑み会。林さんは新松戸に住まいがあり、新松戸で何回か吞んだことがある。林さんから勤めていた環境協会を退社したというメールが来たので呑み会となった。林さんと別れてから我孫子駅前のマッサージ店へ。
4月某日
帰宅しようと山手線に乗っていたら健康・生きがい財団の大谷さんから電話。今、和歌山から帰って東京駅だという。日暮里で吞もうということになって北改札で待つこと5分。大谷さんとまず谷中霊園方面に向かい、ついで太田道灌像のある東口へ。太田道灌像の向かいにある「いづみや」へ。ここは以前一人で入ったことがあるが安くて大衆的なお店。大谷さんによると大宮にも兄弟店があるそうだ。だがメニューには微妙な違いがある。ここは一人で来て30分ほどで帰る人が多い。居酒屋にも個性があるのだ。
4月某日
新宿歌舞伎町のスナック「ジャックの豆の木」の店長だった三輪さんは、お店を閉店後奥さんの実家がある鹿児島に帰っているが、不動産の管理や何やかやでときどき東京に出てくる。私も会社を休んで神保町で待ち合わせ。桜を見に行こうと靖国神社へ。平日だが私らのような高齢者で境内は混んでいた。大鳥居を潜り、桜を見ながら本殿へ。係りの人が「本殿を正面から写真に撮らないでください」と叫んでいる。三輪さんはお父さんの弟が戦死したとかで子どものころ母親に連れられて、靖国に足を運んだことがあるという。お国のために死んでいった英霊を祀っている靖国神社には尊崇の念が強い。そんな三輪さんも安保法制等の安倍政権の姿勢には批判的だ。まっとうな常識人なのである。靖国神社から千鳥ヶ淵へ。歩きながら歌舞伎町時代の話を聞く。「歌舞伎町の三大スケベ」の話とかここには書けない話も聞くことが出来た。三輪さんと別れ私は半蔵門線の麴町駅へ。帰ろうと思ったが大手町で千代田線に乗り換え湯島へ。不忍池で花見という魂胆だ。不忍池も花見客でいっぱい。ここは外国人の花見客も多い。金髪の若い男女が和服を着て花見に来ている。よく見ると足にはスニーカーを履いている。外国人の若い女性2人連れが和服で通る。こちらはちゃんと草履を履いていた。
4月某日
図書館で借りた「闇の奥」(辻原登 2010年10月 文藝春秋)を読む。最近、辻原登をよく読むのだけれど、きっかけはたぶん「許されざる者」だと思う。4、5年前に発表された作品で、大逆事件に連座して死刑になった和歌山の医師、大石の事績を追った内容だったと思う。舞台は確か新宮だったと記憶している。和歌山は京都、奈良、大阪に距離的には近いけれど「異郷」なんだよね。「闇の奥」にもそれは感じられる。「闇の奥」は読み進んでいくうちにどんどん面白くなっていくのだけれど、作家としての辻原が何を目指しているのか、それもよくわからなくなってますます面白くなってくる。ストーリーは私が要約するには複雑すぎるけど、要するに作者、辻原と辻原の父の村上とその小学校時代の同級生、三上隆の物語である。三上は蝶と小人伝説に魅せられてボルネオの秘境に挑み、消息が途絶える。村上が中心になって何度か現地、ボルネオを捜索するというストーリーだが、最終的には舞台はチベットへ。きっと事実とフィクションがない交ぜになっていると思うけれど、辻原の物語の構想力はすごいと思う。