モリちゃんの酒中日記 1月その2

1月某日
「この星のソウル」(黒川創 新潮社 2024年11月)を読む。戦前の日本と朝鮮、戦後の独裁政権下の韓国と高度経済成長期の日本、そして現在の韓国と日本、時空を超えた旅を体験させてくれる小説である。主人公の中村直人は1961年生まれ。著者の黒川も1961年生まれだから著者の分身と考えてよさそうだ。中村は韓国のガイドブックを編集するためにソウルを訪れる。ガイドを頼んだのが在日韓国人でソウルに留学中の崔(チェ)さんである。崔さんと二人で訪れるソウルの街、そこは戦前の李王朝の首都でもあり、日本に併合された後の京城である。韓国の現代史へのあまりの無知に恥ずかしくなる。

1月某日
韓国の現代史を知ろうと図書館で「新・韓国現代史」(文京殊 岩波新書 2015年12月)を借りる。序章で幕末から明治期の日本人の朝鮮、朝鮮人観を描き、さらに1910年の日本の韓国併合の歴史をたどる。韓国は現在、ユン大統領の弾劾が国会で議決されたが、大統領は官邸での籠城を続けている。私は韓国の民主主義の徹底と市民のデモによる政治参加、政治意識の高さに驚いたものだ。本書を読むと韓国の民主主義が多くの市民が犠牲になった光州事件をはじめとした市民的な抵抗をもとにしていることがわかった。戦後、日本がアメリカから与えられた民主主義を受け入れたのとは、基本が違う気がする。韓国は日本と違って終戦後直ぐに民主主義的な政体が発足したわけではない。日本の敗戦により日本の植民地であった朝鮮半島には北にはソ連軍が、南には米軍が進駐し北には朝鮮民主主義人民共和国、南には大韓民国が成立する。韓国では李承晩が政権を長く握ったが1960年の広範な学生デモにより退陣に追い込まれる。民主主義が定着するかに見えたが朴正煕の軍事クーデターにより朴が独裁的な権力を手中にする。朴のもとで日韓条約が結ばれ、また驚異的な経済成長を遂げる。朴は1979年に暗殺される。朴の後を継いだのが同じ軍人出身の全斗煥で80年には民主化を求める光州事件が起きる。民主化の声が高まり92年には金泳三が大統領に就任、97年に金大中、03年に廬武鉉、07年には李明博、12年には朴槿恵が大統領に当選する。「新・韓国現代史」はここらで記述を終了するのだが、大統領は文大統領に続いてユン大統領が就任する。韓国には政権交代のダイナミズムが存在する。だからこそ市民の政治意識も高くならざるを得ないのではないか。

1月某日
「三千円の使いかた」(原田ひ香 中公文庫 2021年8月)を読む。単行本は18年4月発行だから時代状況は10年代後半か。私が会社を辞めたのが確か16年の11月だからその頃とも重なる。東京は十条に暮らすサラリーマン一家の暮らし、とくにお金を巡る物語である。十条というのがミソ。北区十条、JRの駅でいうと京浜東北線の東十条と赤羽線の十条である。住宅地ではあるが決して高級ではない。東十条から赤羽を過ぎて川を渡ると川口、埼玉県だ。私は中年の母・智子や姉娘の真帆に感情移入してしまったが、実は祖母の琴子と同年代であった。琴子は夫を亡くした後、年金を減額され働きに出ることに。琴子の決意が美しくたくましいのだ。

1月某日
大学の同級生が新橋で弁護士事務所を開いている。彼が幹事をやって毎年、同級生が4、5人集まって新年会をやっている。でも今年は入院や検査、風邪などで欠席者が相次ぎ、私と弁護士の先生だけが出席ということに。5時過ぎに西新橋の事務所を訪問。先生は家族でロスアンゼルスに行ってきたそうでお土産をいただく。先生の事務所の女性を交えて3人で新年会。事務所の女性と話すのは初めてだが、話題が豊富でなかなか面白かった。ちなみに愛読書