モリちゃんの酒中日記 1月その5

1月某日
寺岡さん、本郷さん、角田さんと我孫子のレストラン「コビアン」で待ち合わせ。「コビアン」に着くと3人ともすでに来ていてビールを飲んでいた。土曜日のお昼時で「コビアン」は大繁盛。私たちはビールからワインへ。角田さんは前橋高校から確か都立大学に進学、石油連盟に勤めて何年か前に退職した。前橋では鈴木基司さんや小峰さんの仲間で、その縁から仲良くなった。本郷さんは角田さんと石油連盟時代の知り合い。本郷さんは石油連盟を早くに辞めて石油関係の会社に勤めていた。本郷さんの友達が寺岡さん。やはり石油関係の会社にいて、今も足利の会社に週何回か出社しているようだ。寺岡さんは一番の年長で80歳くらい。本郷さんは昭和21年生まれ、角田さんは22年生まれ、私が23年生まれだ。昼飲みするにはちょうど良い仲間だ。ワインをかなり飲んだが勘定は1人1600円。安い!

1月某日
西部邁の生前、最後の単行本となった「保守の真髄-老酔狂で語る文明の紊乱」(講談社現代新書 2017年12月)を読む。書店のレシートが本に挟まっていた。それによると去年の12月19日に買っている。そのうち読もうと枕元に積んでおいた。西部の自死の報を聞いて読むことにする。西部は頸椎摩滅と腱鞘炎から筆記をできなくなり本書は娘さんの西部智子さんによる口述筆記でまとめられている。口述筆記ではあるが最後の書にふさわしい内容と私には思える。深い絶望感が本書には溢れている。だがその深い絶望感はもっと深い愛、妻や家族、友人に対する愛に裏付けられていると私には感じられる。

1月某日
唐牛健太郎の未亡人の真喜子さんとは何年か前に浪漫堂の倉垣君に紹介してもらい、その後何度か一緒に呑んだことがある。唐牛さんは西部とも仲が良かったので気落ちしていないか電話することにする。「アトモス」という唐牛さんの会社に電話する。電話に出た唐牛さんと思しき女性に「モリタですけど」と伝えるが話が通じない。女性が「唐牛さんは昨年11月に亡くなりました」と言うではないか。驚愕である。一昨年の秋だったか佐野真一の「唐牛伝」の出版記念パーティでお会いしたときは元気そうだったのに。高橋ハムさんに電話すると「そうなんだよ」。毎年7月に高橋さんたちが函館の唐牛健太郎の墓参りをしている。高橋さんは「そん時お前も来いよ」と言ってくれたけど。

1月某日
御徒町の駅前、スーパー吉池の吉池食堂で年友企画の社員だった村井由美子さんと現在、年友企画の総務を担当している石津さん、それと京都大学産学官連携本部の東京事務所長の大谷源一さんと呑む。村井さんとは久しぶりで楽しかった。帰りに我孫子駅前の「愛花」に寄る。

1月某日
神田駅南口の「葡萄舎」は年友企画の入社以来通っているお店。社会福祉法人にんじんの会事務長の伊藤さんと待ち合わせ。店長のケンちゃんが「この間、カメラマンの岡田が来ていたよ」と言う。カメラマンやデザイナー、編集者、イラストレーターなどが集まる店だった。伊藤さんは3月いっぱいでにんじんの会を辞めるという。伊藤さんは私より1歳うえだから無理もないけれど。

1月某日
「月のしずく」(浅田次郎 文春文庫 2000年8月)を読む。単行本は1997年10月、初出は「オール讀物」などで1996~1997年。浅田は1951年生まれだから著者45~46歳ころの作品である。97年上半期の直木賞を「鉄道員(ぽっぽや)」で受賞しているから、受賞前後の作品であろう。浅田の小説には外れがない。というか「あざとい」くらいに上手いと私は思うのだ。表題作「月のしずく」の主人公は、コンビナートで働く「蟻ン子」と呼ばれる荷役労働者、ひょんなことから若いホステスを匿うことになる。ホステスは妊娠中で主人公は腹の子供の父親になろうと決意する。主人公は勤労学生だったり功成り名遂げた会社社長で会ったりするのだが、まぁ常民である。その常民に注ぐ作者の視線が、とてつもなく優しいのだ。