モリちゃんの酒中日記 10月その1

10月某日
全国社会福祉協議会の古都副会長に面談。社保研ティラーレの佐藤社長に同行して来月の「地方から考える社会保障フォーラム」の打ち合わせ。場所を社保研ティラーレに移して吉高会長とOHANA税理士事務所の琉子さん、小林さんと新製品販売の打ち合わせ。有楽町の交通会館にある「ふるさと回帰支援センター」に大谷源一さんを訪ねる。高橋理事長に挨拶して近くの「三州屋銀座店」へ。大谷さんにご馳走になる。大谷さんに「Les Anges(レサンジュ)」第2号を貰う。この雑誌は目次に「新木正人と同時代の群像たち 時に刻んだ爪痕を見よ!」とあるように数年前亡くなった新木正人の友人たちによる雑誌である。新木正人といっても今や知る人も少ないと思う。というか新木が「遠くまで行くんだ」などのミニコミで健筆をふるっていた1960年代末から1970年代でも新木は「知る人ぞ知る」存在で決してメジャーではなかった。私も「新木正人を偲ぶ会」に大谷さんに誘われていくまでは知らなかった。しかし出席してみると早稲田の反戦連合の高橋ハムさんや鈴木基司さん、滋慶学園の平田豪成さん、社会保険研究所の金山さんなど見知った人に何人かに出会った。極めて粗っぽくまとめると60年代末から70年代にかけての「学生叛乱」の時代に革共同中核派から離脱した小野田譲二らと思想傾向を同じくするグループらしい。それはともかく帰りの電車で読んだ「Les Anges」はなかなか面白かった。

10月某日
図書館で借りた「昭和史講義【戦後編】(上)」(筒井清忠編 ちくま新書 2020年8月)を読む。このシリーズは近現代史や思想史の専門家がテーマごとに執筆している。本書では「天皇・マッカーサー会談から象徴天皇まで」から「日ソ共同宣言」まで20のテーマが設定されている。各編ともに私が初めて知った歴史的事実も非常に面白かった。各テーマの詳述は避けるが、編者の筒井教授の「まえがき」の一部を紹介しておこう。「戦後昭和史についての書物は多いが、客観的で実証的な研究成果に基づいて書かれたものは少なかった。しかしさまざまな形でようやく近年資料が公開され着実な成果が積み重ねられつつある。それらを初めて集大成するのが本書である」。

10月某日
「日本学術会議」が推薦した会員候補105人のうち6人が任命されなかった。会員は学術会議が推薦した候補を内閣総理大臣に任命されることになっているが、従来の慣例では候補者はそのまま任命されていた。ただ10月4日の朝日新聞では2016年の補充人事では官邸が難色を示し欠員補充ができなかったと報じている。いづれにしても安倍政権以来の官邸の官僚人事への介入が学術、学問の世界にも及んできているように思う。学術会議が誕生したのは戦前、一部を除いて大学や学者が戦争に協力してきた反省に基づいていると聞いている。6人のうち近代日本政治史の加藤陽子東大教授の著作の何冊か私も読んでいて、特に戦前期に日本が戦争に突き進んでいく状況を分析した「それでも日本人は『戦争』を選んだ」には感銘を受けた。政治権力が学問の世界に口をはさむのは厳に慎むべきだ。安倍―菅政権の問題、そしておそらくは官邸官僚の資質の問題と思われる。

10月某日
御徒町駅でHCM社の大橋会長と待ち合わせ。「清龍」という居酒屋へ行く。「清龍」は埼玉県蓮田の清瀧酒造の直営店で、私は神田と高田馬場店には行ったことがあるが御徒町店は初めて。大橋さんによると御徒町店は新しいのか「内装がきれい」ということだった。ホッピーを呑みながら楽しく会話、だが残念ながら呑み過ぎで内容は覚えていません。大橋会長にすっかりご馳走になる。

10月某日
社会保険出版社で高本社長と「Gバスター」の打ち合わせ。御茶ノ水から神田へ行って社保研ティラーレに寄って佐藤社長と懇談、大手町から霞が関へ。フェアネス法律事務所でリモート会議。終って遠藤代表弁護士に現在読んでいる「日ソ戦争1945年8月」の著者、富田武成蹊大学教授を「知っていますか?」と聞くと、「知ってるよ、この間も会ったばかり」と言っていた。富田には「歴史としての東大闘争」の著作もあり、社会主義学生戦線(フロント)の活動家だったという。フェアネス法律事務所の今村弁護士の父上は、東大駒場の自治会委員長でフロントだったというし、東大のフロントは優秀だったようだ。仙谷由人、阿部知子もそうだしね。

10月某日
「日ソ戦争1945年8月-捨てられた兵士と居留民」(富田武 みすず書房 2020年7月)を読む。第2次世界大戦の東アジア地域での戦闘、戦争を太平洋戦争と呼ぶのは米国側の呼称で、日本は大東亜戦争と呼んでいた。太平洋戦争では中国戦線やインパール戦線をイメージすることは難しい。まして終戦の年の8月9日、ソ連軍の満洲侵攻に始まり終戦が発せられた8月15日以降も戦闘が継続された、本書が言うところの「日ソ戦争」は、太平洋戦争の「本筋」からは外れた戦闘と思われがちだし、私も本書を読むまではそう思ってきた。1945年8月9日から9月2日まで戦われた日ソ戦争はソ連軍170万人、日本軍100万人が短期間ではあれ戦い、日本側の死者は将兵約8万、民間人約25万、捕虜約60万を数えた、明らかな戦争であった。私は確か加藤陽子の著作によって日本の戦死者が昭和18年以降に急増していることを知り、早期和平に踏み切れなかった日本の戦争指導者の決断力のなさに憤りを覚えた。日ソ戦争にもそのことは強く感じる。まして列車による避難は関東軍や満鉄社員とその家族が優先されたことを知ると、「権力者とその周辺を優遇する」という日本の「ある種の風土」を感じてしまう。これは最近の安倍政権や菅政権にも感じられることだ。と同時に捕虜をシベリアに抑留し、安価または無償の労働力として活用したソ連、スターリンにも怒りを禁じえない。ソ連は人的資源だけでなく工場の機械設備や原料、食料も奪った。そのうえソ連軍の軍紀は乱れ日本人婦女子に対する強姦事件が頻発したという。日ソ戦争については個別の具体例はこれまでも明らかにされてきたが、その全体像は本書によってはじめて明らかになったといって良い。