モリちゃんの酒中日記 11月その1

11月某日
我孫子駅の改札口で川邉さん、吉武さん、大谷さんと待ち合わせ。吉武さんが予約してくれた我孫子駅南口の「海鮮処いわい」へ。ビールで乾杯の後、吉武さんが持ってきてくれた赤ワインを飲む。その後で日本酒。店の女性が勧めてくれた日本酒を呑む。呑みやすい酒だったが、残念ながら銘柄を忘れた。一人5000円でお釣りが来た。3人と別れて私は「愛花」に寄る。

11月某日
中村秀一さんの「ドキュメント 社会保障改革」の装丁をお願いしているデザイナーの工藤さんの事務所へ、ブックカバーと表紙の色校正を持っていく。当社の担当の酒井に同行。工藤さんはブックデザイン賞を受賞するなどこの世界では重鎮。でも全然偉ぶらない。工藤さんの事務所「デザイン実験室」のある外苑前から銀座線に乗る。神田まで酒井とおしゃべり。神田で酒井は下車して帰社。私は末広町で降りて「章太亭」に寄るか、上野のガード下を覘くか、銀座線の終点の浅草まで足を延ばすか迷ったが、結局、我孫子へ帰る。駅前の「七輪」でホッピーとウイスキーの炭酸割。

11月某日
我孫子駅前の呑み屋「愛花」の常連のソノちゃんとケイちゃんに誘われて、新潟へ1泊2日の旅へ。ホテルとセットなので新幹線はグリーン車。新潟駅前のホテルに荷物を置いて駅ナカへ。駅ナカでは新潟大学の医学部が糖尿病の検査をやっていたので私とケイちゃんはやってもらう。ソノちゃんは頑なに「やらない」。駅ナカの日本酒館で500円で5種類の地酒を呑み比べ。タクシーで酒蔵「今代司酒造」へ。酒造りの現場を見学。見学の終わりに純米大吟醸、純米吟醸、純米酒などを利き酒。近くの味噌蔵「峰村醸造」で私は生姜の味噌漬けを購入。夕方になったのでタクシーで新潟駅近くの繁華街へ。60過ぎと思われる女将が一人でやっている「えちご」という店に入る。一瞬「大丈夫かな?」と思ったが、これが大正解。新潟でもあまり出回っていないという菅名岳という酒を呑む。エビとツブ貝の刺身、のどぐろの焼き物もおいしかった。近くの「安具楽」という店へはしご。お客が勧めてくれた「緑川」を呑む。タクシーでホテルへ。2日目。朝から雨。新潟市内の観光名所を巡るバスで新潟市美術館へ。国立近代美術館の工芸館名品展と常設展を鑑賞。ミュージアムショップでなぜか立川談四楼の古本を売っていたので300円(+消費税)で購入。新潟駅近くの定食屋で昼食。私はさすがに酒を控えるがケイちゃんは生ビールの小、ソノちゃんは八海山を2合。帰りは越後湯沢で途中下車、ソノちゃんとケイちゃんは買い物、私は駅ナカの温泉へ。新幹線で上野へ戻り我孫子へ。

11月某日
図書館で借りた桜木紫乃の「砂上」(角川書店 2017年9月)を読む。主人公の柊玲央は離婚後、同居していた母とも死別、現在は同級生がオーナーシェフのビストロでアルバイトをしながら小説を書いている。編集者の助言で2年前に懸賞小説に応募した小説「砂上」を全面的に書き直すことにする。桜木紫乃の小説「砂上」が玲央の描く「砂上」のメイキングドラマになっているという言わば「入れ子構造」の物語。玲央の「砂上」では玲央の母は「女がひとり新宿から出て北海道に戻り子供を産んだ」し、玲央は「女の娘も、早くに男を覚えて妊娠し、父のない子を産んだ」と表現される。生々しいストーリーを乾いた文体で表現するのが桜木の特徴だ。玲央は「この世に『生まれた』というよりも、砂の上に『生えた』と表現したほうがふさわしい女たちだった。縛られるだけの親を持たず、縛るような子を持たず、頼むに足る杖を持たずに生きている。それでよしとする己を、せめて自分だけは大事にしてやろうと思う」と書く。これはたぶん桜木の思いとも通じる。それにしても桜木は、川上弘美、井上荒野、三浦しをん、角田光代といった女流作家とほぼ同世代と思われるが、ずいぶん異質に感じられる。生まれ育ち現在も住んでいる北海道という風土もあるが、高卒で就職しながら文学修業に挑んだということも影響していると思う。身近に仲間がいないという強さかもしれない。