モリちゃんの酒中日記 11月その2

11月某日
「東京裏返し―社会学的街歩きガイド」(吉見俊哉 集英社新書 2020年8月)を読む。著者の吉見俊哉は1957年生まれ、今年63歳。東大大学院情報学環教授である。私は今を去ること30年以上前、「年金と住宅」という雑誌で「古地図を歩く」という欄を担当し、当時年住協の理事長だった中村一成さんとカメラマンと3人で江戸町奉行所の跡や赤穂浪士の討ち入りの足どりを辿ったりした思い出がある。1年以上連載は続いたのでこの本でも紹介されている上野、本郷、湯島、王子あたりには土地勘があるのだ。というかそれ以来「街歩き」が好きになった。「はじめに」で街歩きが最近盛んになったのはNHKテレビの「ブラタモリ」がきっかけと紹介されていたが、私は「ブラタモリ」も好きでよく観ます。東京は3回占領されているというのが著者の考え。最初は徳川家康、次は薩長、3度目は太平洋戦争による米軍だ。東京というと赤坂、六本木、新宿、渋谷といった東京西部の都心に関心が向かいがちだが著者は都心北部に注目する。上野、秋葉原、本郷、湯島、谷中あたりね。ここら辺も私の趣味と一致する。さらに墨田川と多摩川に挟まれた江戸=東京は神田川、石神井川、日本橋川、小名木川など多くの河川、水路を巡らした水の都でもあったことが明らかにされる。コロナで街歩きもままならないが、とりあえず神田明神、湯島天神あたりを街歩きしてみようかな。

11月某日
「戦前日本のポピュリズム―日米戦争への道」(筒井清忠 中公新書 2018年1月)を読む。筒井清忠は日本の近現代史専攻で彼の編著作は何冊も読んだ。資料を駆使して定説を覆していくところが好感を持てる。本書の「まえがき」で著者は「ポピュリズムの定義はいろいろあるが、要するに大衆の人気に基づく政治」と定義し、「言い換えると、ほかでもない日米戦争に日本を進めていったのがポピュリズム」とする。第1章の「日比谷焼き討ち事件」から第12章「第二次近衛内閣・新体制・日米戦争」まで戦前期の日本のポピュリズムについて紹介・分析がなされているが、ここでは第10章の「天皇機関説事件」を考えてみたい。天皇機関説事件とは、憲法学者美濃部達吉が大正期以来唱えてきて学会でも多くの支持を得てきた天皇機関説が、1935年に「国体明徴運動」の展開によって国体に反するものとして攻撃され、明治憲法の解釈として否定された事件である。まず、貴族院と衆議院で天皇機関説が攻撃され軍部さらにマスコミ、庶民がこれに追随した。天皇機関説排撃だけでなく、戦前のポピュリズムにマスコミの果たした役割は大きい。さて私は天皇機関説排撃に現代の菅内閣の「学術会議任命拒否」を重ね合わせてみてしまうのだ。学術への貢献という観点から学術会議が推薦した学者を、俯瞰的な観点という抽象的な言葉で否定する菅官邸。美濃部の天皇機関説も学問的、学術的観点から否定されたのではなく、天皇を神聖視するポピュリズムによって否定された。「学術会議」問題に関して言うとマスコミが官邸に批判的なのが救いだ。だが共同通信の論説副委員長が首相補佐官になったりして、大丈夫か?と思ってしまう。

11月某日
神田駅南口の中華料理屋「隨苑」でランチ、回鍋肉定食680円。「ライス少な目で」とお願いしたが、それでも完食するのにやや苦労する。年齢と共にだんだん食が細くなる。社保研ティラーレで吉高会長と雑談、その後、厚労省の伊原和人政策統括官とティラーレの佐藤社長とリモート会議、次回の「地方から考える社会保障フォーラム」について貴重なアドバイスを頂く。伊原さんは全世代型社会保障の担当ということでウイークデイは時間がとれず、土曜日午後のリモート会議となった。「土曜日に出てきてもらってありがとう」ということで社保研ティラーレに神田駅西口の洋風居酒屋で夕食をご馳走になる。

11月某日
図書館で借りた「秘密の花園」(三浦しをん 新潮文庫 平成19年3月)を読む。巻末に「本書は2002年2月マガジンハウス社から刊行された」とあるから初出はマガジンハウス系の雑誌かも知れない。三浦しをんの小説って私はそれほど多く読んだわけではないが、割とユーモアに満ちたものが多かったと思うけれど、この小説は一味違うと感じた。カトリック系女子校に通う3人の女子高生が主人公。那由多が語り手となる「洪水のあとに」、淑子が語る「地下を照らす」、翠(すい)の「廃園の花守りは唄う」の3章構成。私は小中高と一貫して男女共学だったから女子校の雰囲気はちょいと想像がつかない。それこそ私にとっては女子校は「秘密の花園」である。久しぶりに「透明感」溢れる小説を読んだ思い。