モリちゃんの酒中日記 3月その2

3月某日
「夢も見ずに眠った」(絲山秋子 河出書房新社 2019年1月)を読む。大学で一緒だった高之と佐和子は結婚して熊谷の佐和子の実家の離れに住む。佐和子は企業に勤めキャリアを積むが高之はアルバイト先が一定しない。高之は佐和子の両親と気が合っている。佐和子が札幌に転勤となっても佐和子の実家からは離れない。高之は鬱病を病み2人の気持ちは次第に離れていって離婚する。佐和子はシンガポールの会計事務所に転職、帰国後、知人の弟と起業する。高之は青梅で女住職の紹介で便利屋のような仕事を始めるが、女住職の信用もあって徐々に仕事が増えていく。というような2人の日常が淡々と綴られていく。それが何とも言えない絲山秋子の「味」を出している。札幌、函館、岡山、佃島、奥出雲と日本各地を訪れる2人、それが日常に彩りをあたえてもいるのだろう。大学の同級生と結婚して奥さんの実家に住み、鬱病になるというのはワタシと一緒です。

3月某日
お茶の水の山の上ホテル裏の明治大学14号館に政経学部の金子隆一特任教授を訪問する。社保険ティラーレの佐藤聖子社長と一緒に5月の「地方から考える社会保障フォーラム」の講師をお願いするためだ。先生は人口学の権威。日本の人口は江戸時代中頃に新田開発や農業技術の改良によって3000万人ほどに拡大、その後天明の飢饉などによって拡大にストップがかかるが、明治以降、戦争中の一時期を除いて増加する。しかし数年前から人口は減り始め、この傾向に歯止めを掛けるのは難しいのではという論旨の論文を読んだことがある。フォーラムでは地方議員の先生方に「地方ごとに人口減少という課題をどう乗り切っていくか考えてもらいたい」と訴えてもらえたらと思う。社保険ティラーレに伺い、吉高さんにUAゼンセンの常任執行委員の永井崇大さんを紹介される。永井さんは武田薬品の労組からゼンセンに来ているが、日本の製薬会社も人口減=マーケットの縮小という現実に直面している。永井さんのような若い人に頑張ってほしいと思う。
今日は元厚労次官で人事院総裁も務めた江利川毅さんを囲む会があるので、神田の「カクヤス」という酒の量販店に行きアイリッシュウイスキーのジェムソンを買う。会場の鎌倉橋ビル地下1階の「跳人」に行く。スタートは6時からだが、6時前に江利川さんが厚労省年金局資金課長時代の課長補佐だった岩野さん、江利川さんの次の資金課長だった川邉新さん、社保険ティラーレの佐藤社長が来る。6時になると川邉さんの次の資金課長の吉武民樹さん、元厚労省で現在、埼玉医科大学教授の亀井美登利さん、社会保険旬報の手塚優子さん、私の飲み友達の大谷源一さん、その飲み友達の一般社団法人LeLien代表理事の神山弓子さん、同じく一般社団法人セルフケアネットワークの高本真佐子代表理事も来る。吉武さんは台湾土産の紹興酒を持参、これが香が高く絶品。「竹下さんを偲ぶ会」に出席できなかった茅野千江子さんが竹下さんの闘病の様子を知りたいというので今回、フィスメックの小出建社長にも出席してもらい話してもらう。この会は最初、江利川さんや川邉さんの資金課長時代の補佐と、竹下さんと私というメンバーで始まったが、その後私が勝手にメンバーを広げていった。それを江利川さんは笑って許してくれている。

3月某日
「なきむし姫」(重松清 新潮文庫 平成27年7月)を読む。文庫の巻末に「本作は、主婦の友社『Como』に2005年4月号から2006年9月号まで掲載された『なきむし姫』に加筆修正した、文庫オリジナル作である」と記してある。「なきむし姫」ことアヤと哲也は幼稚園の頃からの幼馴染。結婚した今は4月から小学校に入学するブンちゃんと地の都の幼稚園に通うチッキの2児の親でもある。もう一人の幼馴染でバツイチの健は子供のころから何かとアヤと哲也のことをかばってくれていた。4月から哲也が神戸に単身赴任し翌年の3月に哲也が神戸から帰り、健はシングルファーザーとして育ててきた娘を再婚する元妻のもとに返すことになる。その1年間を描く中編小説の主人公はもちろんアヤだ。しかし隠れた主人公は健であろう。言ってみれば健は「フーテンのトラ」の新興団地版である。そう言えば重松清の小説は舞台は違ってもどれも同じような味わいである。毒がないのも「フーテンのトラ」に似ている。

3月某日
本郷の東大工学部8号館に辻哲夫さんを訪ねる。5月の「地方から考える社会保障フォーラム」の講師をお願いに社保険ティラーレの佐藤社長と千代田線の根津駅から東大へ向かう。辻さんは「これからの社会保障は市町村がカギを握っている」と「社会保障フォーラム」の考え方にも全面的に賛成してくれた。辻さんの部屋に海上自衛隊幹部学校の校長からの感謝状が掲げられていたので「あれは何ですか?」と聞くと「幹部学校で講演をしたため」という。「外に向かっては外交と防衛、内に向かっては社会保障」と辻さんは考える。「成程」である。辻さんに高橋ハムさんが「俺は厚労省では辻が一番気が合う」と言ってましたと伝えると「そうですか。学生時代から彼は全共闘で私はどちらかというと保守派。考え方は違うのですがなぜか気が合うのですよ」と嬉しそうだった。
元厚労省の山崎史郎さんは現在、リトアニアの大使。社会保険研究所の谷野浩太郎編集長が「会うので一緒に来ませんか?」と誘ってくれたので東大から待ち合わせ場所の読売新聞社へ。佐藤社長がタクシーを奮発してくれた。山崎さんは北海道庁に出向していたことがあるので「リトアニアは北海道に似ているかな。十勝平野や美瑛のイメージ」という。リトアニアはロシア革命前はロシア帝国に併合され、革命後、いったんは独立したもののスターリンによってふたたび併合、第2次世界大戦ではナチスドイツに占領される。そのときナチスドイツから逃れるユダヤ人に日本経由のビザを発行したのが当時の領事、杉原千畝だ。そんなこともあって対日感情は大変いいそうだ。「町並みはきれいだし、女性も美人が多いね。遊びに来なよ」と山崎さん。美人が多いというのは魅力だけれど。

3月某日
有楽町の交通会館にある「ふるさと回帰支援センター」で代表の高橋ハムさんと出版社ウエイツの中井社長、法学部闘争委員会OBの竹石さんと「早大闘争50周年の集い」の打ち合わせ。中井さんは私たちより数年若い。早大闘争の後、革マルのリンチによって殺された早大生、川口君の「虐殺に抗議する闘い」を担った。ハムさんとは新宿のゴールデン街で知り合ったらしい。終って交通会館地下1階の「よかよか」でハムさんにご馳走になる。ここは日本全国の日本酒が揃っている。

3月某日
机を置かせてもらっている西新橋のHCM社に大谷さんに来てもらって、「早大闘争50周年の会」と「桜を見る会」の打ち合わせ。終って2人で内神田の「社保険ティラーレ」へ。吉高さん、佐藤聖子社長と話す。佐藤社長には「桜を見る会」への出席をお願いする。終って2人で「鳥千」へ。ここは屋号が焼き鳥屋のようだが刺身がうまい。4月の呑み会の予約もしておく。