4月某日
図書館で借りた「西洋の敗北-日本と世界に何が起きるのか」(エマニエル・トッド 文藝春秋 2024年11月)を読む。「この本は多くの人の予約が入っています。なるべく1週間くらいでお返しください」という赤い紙が貼ってあったので、3日間あまりで400ページ余りの本を読了。しかし中身を理解し得たかというと心もとない。ロシアのウクライナ侵攻が本書執筆の動機の一つだったようだ。序章でロシアを「ネオ・スターリン的な官僚制のロシアとはかけ離れた、技術的、経済的、社会的に極めて柔軟性に富む「近代的なロシア」-つまり侮ってはならない強敵-を見出すことができる」と表現する一方、アメリカについては「西洋の危機、とりわけアメリカの末期的な危機こそ地球の均衡を危うくしている」と指摘している。プーチン政権下2000年から2017年でアルコール中毒による死亡率は、人口10万人当たり25.6人から8.4人に、殺人率も28.2人から6.2人に減少、2020年には4.7人にまで低下している。2000年の乳幼児死亡率は1000人当たり19人だったが2020年には4.4人まで減少、アメリカの5.4人を下回った。西欧が課した経済制裁もロシアに一定の困難をもたらしたが、一方で代替物の生産などで経済成長ももたらしたという。
4月某日
「戦争と有事-ウクライナ戦争、ガザ戦争、台湾危機の深層」(佐藤優 GAKUKEN 2024年10月)を読む。私が感じたのは佐藤優の考えはウクライナ戦争に関してはロシア、プーチン寄り、ガザ戦争に関してはイスラエル寄りということだ。佐藤は同志社大学神学研究科修了、外務省入省、在ロシア連邦日本国大使館に勤務、その後、本省で対ロシア外交の最前線で活躍した。確かプロテスタントの信者でもあり、そうした経歴からもロシアやイスラエル寄りとなるのも、うなずけないことではない。まぁ私は佐藤とは対称的にウクライナ、アラブ寄りなのですが。
4月某日
千葉県地域型年金委員会の理事会に出席。会場は京葉線の千葉みなと駅近くの千葉年金事務所である。理事会開催の30分ほど前に駅に到着、駅構内の立ち食いソバ屋でカツ丼の小を食べる(450円)。スマホの地図を見ながら年金事務所を探すが難航。1カ月くらい前に立川の社会福祉法人の評議員会に結局たどり着けなかった記憶がよぎる。何とか探しあげて30分遅刻で出席。千葉県年金委員会の解散等を決議する。理事会終了後、近くの居酒屋で出席理事全員で懇親会。理事は社会保険OBが大半だが、会長の岩瀬さんは確か京葉銀行の出身で現在は趣味で油絵を描く。いつか自分の油絵を絵葉書にしたものをいただいたが巧みなものだった。懇親会の費用は幹事の佐々木満さんが委員会の残余金から払ってくれた。京葉線から武蔵野線を経由、新松戸から常磐線で我孫子へ。
4月某日
「男どき 女どき」(向田邦子 新潮文庫 昭和60年5月)を読む。向田邦子は1929(昭和4)年-生まれ、1981(昭和56)年に台湾上空の飛行機事故で死去。人気シナリオライターとして数々のドラマを手がけたが、80年に直木賞を受賞。ということは小説家として「これから」というときに亡くなったことになる。本書は「この作品集は昭和57年8月新潮社より刊行された」と巻末に付記されているから、作家の事故死を受けて急に編集されたものだろう。4編の短編といくつかのエッセーが収録されている。短編には彼女の才能を感じるしエッセーには彼女の気配りと優しさを感じる。
4月某日
「菜食主義者」(ハン・ガン クオン 2011年4月)を読む。昨年、韓国初のノーベル文学賞を受賞したハン・ガン。本書も受賞を受けて増刷されたらしく、奥付は「2024年12月第2版第8刷」となっていた。本書は「菜食主義者」「蒙古斑」「木の花火」というタイトルの中編小説の連作である。最初の「菜食職主義者」を読んだ段階ではさして感銘を受けなかったのだが、「蒙古斑」「木の花火」と読み進むうちにハン・ガンの人間洞察の深さに驚かされることとなった。主人公が植物となるイメージが出てくるが、これは人間に対する絶望を表現しているように私には読めた。
4月某日
「国際法からとらえるパレスチナQ&A-イスラエルの犯罪を止めるために」(ステファニー・クープ 岩波ブックレット 2024年12月)を読む。著者は青山学院大学法学部ヒューマンライツ学科准教授。本書によると国際法とは「国際社会に関する法で、基本的に、国際条約、そして慣習国際法と言われる確立した国際社会の慣習からなります」。そして「パレスチナ人という集団の全部または一部を破壊する意図をもってイスラエルがガザを攻撃しているという視点は、イスラエルによる1948年以来のパレスチナ人の追放、パレスチナの不法占拠の継続、平和的解決の妨害といった歴史的背景を、現在の状況とつなげて考えるためにも、重要」としている。著者の考えに私は全面的に賛成である。1947年、国連総会で、パレスチナ人とユダヤ人の間でパレスチナを分割する決議が採択された。この決議は人口の三分の一、土地の6%しか有していなかったユダヤ人に、パレスチナの領土の57%を与えるという不公平なものであった。さらにイスラエルは1967年の第三次中東戦争以後も、入植地を拡大し、パレスチナ人の住居や施設を爆撃、侵略している。本書はこれらのイスラエルの行為を、国際法から見ても犯罪と断罪している。
4月某日
「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ ちくま文庫 2023年2月)を読む。昨年末、韓国の現職大統領が罷免された。罷免を要求する集会、デモ行進には多くの女性たちの姿があった。私はテレビのニュースなどでこの映像を見るにつけ「韓国では女性の地位は男性と同等」と思い込んでいたが、本書を読むとそうでもないようだ。同じ子供であっても男の子の進学が優先され、キム・ジヨンの母は、国民学校(日本の小学校)を出ると働かなければならなかった。兄は大学に進んだにも関わらずである。キム・ジヨンの親は私と同じ世代である。韓国は一人当たりのGNPは日本を追い抜いているが、少子化は日本を上回る勢いで進んでいる。私にとって韓国は「近くて遠い国」。韓国のことをもっともっと知りたいと思う。
4月某日
引き続きチョ・ナムジュの「ソヨンドン物語」(筑摩書房 2024年7月)を読む。目次裏に「書名の「ソヨンドン」はカタカナに、本文の町名は「ソヨン洞」とした」と注記がある。洞とは日本での○○市本町のように町に該当する地名の表記方法らしい。ソヨン町に住む人びとの日常を綴る小説である。韓国とくにソウルでは不動産価格の上昇が著しい。それを背景にした庶民の悲喜こもごもが描かれる。日本の文学界でも女性の作家の伸張が著しいが韓国でもその傾向はあるようだ。この小説では登場人物の名前はすべてカタカナで、ユジョン、セフン、ヨングンという具合だ。韓国では漢字はほぼ使われなくなっているようだ。韓国の現代小説はかなり面白いと思う。ハン・ガンのノーベル文学賞受賞も韓国の現代小説に光を当てるきっかけの一つになったのかもしれない。