6月某日
「うらはぐさ風土記」(中島京子 集英社 2023年3月)を読む。中島京子は1964年、東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業後、フリーライターなどを経て作家に。08年に「小さなお家」で直木賞受賞。日本での難民の暮らしと支援する人たちを描いた「やさしい猫」は佳作。「うらはぐさ風土記」は長年、米国で暮らしていた沙希がパートナーとの離婚を機に帰国。故郷でもあり、通学していた女子大学もある街で暮らし始める。幸い女子大での講師の仕事も決まり、住まいも一人暮らしの叔父が施設に移った後の一軒家を格安で借りることができた。舞台となる街は東京近郊で女子大があり、繁華街と住宅地が近接しているということから吉祥寺と推定される。小説ではそこでの沙希の日常が淡々と描かれる。叔父の家には伯父が残していったウイスキーやワインが大量にあった。沙希はそれらを晩酌に一人で夕ご飯を食べたりする。吉祥寺ね。しばらく行っていないな。井の頭線に取引先があったり、友人が住んでいたりしたから現役時代は何度か吉祥寺で呑んだ。小説には布袋という老舗の焼き鳥屋が出てくるが、吉祥寺の伊勢屋というこれも老舗の焼き鳥屋にも行った。家からは遠いのだけれど、今度久しぶりに行ってみようかね。
6月某日
「オパールの炎」(桐野夏生 中央公論新社 2024年6月)を読む。桐野夏生の最新作であり、初出は「婦人公論」2022年12月号~2023年11月号。巻末に「本書はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません」と注記されている。物語はピル解禁同盟のリーダー塙玲衣子を中心に展開する。ピル解禁同盟はピンクのヘルメットを被って不倫や浮気で家庭を顧みない男たちを弾劾する。となると、この小説は中ピ連とそのリーダー榎美沙子をモデルとしていることが知れる。小説と関係なく中ピ連と榎の活動を振り返ると、時代的な制約を感じざるを得ない。彼女らの活動は一夫一婦制の旧来の家族制度を前提としたものではなかったか。中絶の禁止反対とピル解禁を訴えたのは正しかったと思うけれど。思えば70年代は中ピ連のような得体の知れないグループが蠢いていた時代だったのかもしれない。唐十郎や寺山修司、連合赤軍やアラブ赤軍、平岡正明や赤瀬川源平…。
6月某日
「東学農民戦争と日本-もう一つの日清戦争」(中塚明 井上勝生 朴孟ス 高文研 2013年6月第1刷 2024年4月新版第1刷)を読む。東学農民戦争というのは高校の世界史の教科書に載っていた東学党の乱のことなんだけれど、私の知識はそこまで。いったいどのような戦争なのか、本書を読むまではまったくの無知でした。東学とは「朝鮮王朝の末期、政治的・社会的に直面していたさまざまの困難な問題を民衆のレベルから改革し、迫り来る外国の圧力から民族的な利益を守ろうとする、当時の朝鮮社会の歴史的なねがいを反映した思想」で、この思想は当時の朝鮮の農民に広く深く浸透した。本書によると東学農民軍は、まず1894年3月に朝鮮王制の悪政を改革するため全面的な決起を決意する。そして農民軍の鎮圧を口実に清国と日本が朝鮮に出兵してくる。農民軍の主要な敵は朝鮮王朝軍から日本軍へと変わる。農民軍の武器は火縄銃と刀、鍬の類いだったが、対する日本軍は近代的な兵制のもと、ライフルと多数の弾薬を備えていた。蜂起した農民軍は最盛期には数十万人ともいわれ、対する日本軍は後備第19大隊3中隊、全軍約600名余の兵力であったという。「この兵力で数十万の農民軍を追い詰めて殲滅し」、農民軍の犠牲者は少なくとも数万人にのぼる。犠牲者の中には戦死者だけでなく、捕らえられて刑死したもの、拷問により殺されたものも少なくない。本書のきっかけとなった北海道大学で1995年に見つかった人間の頭骨6体も、全羅道珍島で数百名が惨殺された一部ということだ。日本軍が行ったことは明確に国際法違反であるし、それ以前に人権を踏みにじるものだ。高校で日本近代史を学ぶときに、日韓併合や東学農民戦争について、事実をきちんと教えないとね。
6月某日
「タラント」(角田光代 中央公論新社 2022年2月)を読む。読売新聞朝刊に2020年7月28日から21年7月23日まで連載されたもの。四国のうどん屋の娘、さよりは大学進学を機に上京する。ボランティアサークルの「麦の会」に入会し、ネパールでのボランティア活動も経験する。サークルではカメラマン志望の翔太やジャーナリスト志望の玲と仲良くなる。卒業後、小さな出版社に就職したさより、カメラマンやジャーナリストとして活動する翔太や玲ともたまに会う日常。さよりには戦争で片膝を失った祖父がいる。その祖父に女名前の手紙が不定期で届く。ウクライナへのロシア侵攻は22年2月、イスラエルのガザ侵攻は昨年10月。この小説の執筆時点では戦争は遠い存在だった。しかし、小説では翔太や玲は紛争地での取材に飛ぶし、さよりの祖父は戦争の影を引きずっている。角田光代の作家的な感性は信ずるに足りる。
6月某日
終日雨。関東地方も梅雨入りしたそうだ。午前中に後期高齢者の歯科健診と、週2回行っているマッサージがあるが、同居している長男が休みということなので車で送って貰う。歯科検診は手賀沼健康歯科へ。以前は緑歯科と言っていたが新装を機に改名したらしい。予約していた10時に受付へ。この歯科医院は歯科衛生士がそれぞれ個室を持っていて、そこで歯科健診を受ける。歯のメンテナンスは概ね良好とのことだったが、歯周病の疑いを指摘される。しばらく通院して治療に当たることにする。雨のなか、車で絆マッサージ治療院へ。15分の電気治療と15分のマッサージ。マッサージ治療院の前で車に乗る。15%の割引券があるので京北スーパーでウイスキーを購入。車で帰宅。