8月某日
NHK BSで映画「緋牡丹博徒」を観る。全部で8作制作された緋牡丹博徒シリーズの第1作で主演が藤純子、子分役に山本麟一と待田京介、敵役の親分が大木実、藤純子の助っ人が高倉健、藤純子に好意的な親分さんに若山富三郎とその妹に清川虹子という豪華布陣。公開は1968年。シリーズは1972年まで続けられたが、ちょうど私の大学4年間と重なる。「緋牡丹博徒」は劇場で観た記憶がある。早稲田松竹だったか新井薬師東映だったか。
8月某日
「兵諫」(浅田次郎 講談社 2021年7月)を読む。「蒼穹の昴」シリーズの最新刊で「兵諫」は「へいかん」と読んで「兵を挙げてでも主の過ちを諫めること」という。この物語に出てくる兵諫は二つ。一つは1936年2月26日、陸軍青年将校が引き起こしたクーデター2.26事件、同じく1936年12月12日中華民国西安で起きた張学良らによる蒋介石の拉致監禁事件、西安事件である。「蒼穹の昴」は人気シリーズだが、変転する中国と日本の近代史を背景にした人間ドラマだ。浅田次郎の志那愛に溢れた作品と私は思う。一つの例は中国人の人名、地名表記だ。日本の小説では中国人名や地名は日本の音で読まれる。蒋介石は「しょうかいせき」、西安は「せいあん」だ。だが「兵諫」はじめ、「蒼穹の昴」シリーズでは中国語読みがルビで示される。蒋介石「ジャンジエシィ」、西安「シーアン」というように。「兵諫」の主人公はニューヨーク・タイムズ記者のジェームズ・リー・ターナー、朝日新聞記者の北村修治あるいは特務機関員の志津大尉とも読めるが、シリーズ全体の主人公は日本と中国の近代史であろう。
8月某日
社会保険出版社の高本社長に面談。午後ワクチン接種で不在ということなので11時過ぎに訪問。社会保険出版社から社保研ティラーレにまわろうかと思ったが、コロナが蔓延中ということもあって自粛、真っ直ぐ我孫子へ帰る。我孫子駅からバスに乗って3つ目のアビスタ前で降りる。停留所から歩いて5分ほどで我が家だが、今日は近くのイタリアン「ムッシュタタン」に寄る。パスタとサラダ、飲み物、デザートが付いて1000円(税別)だった。安いと思いますが。
8月某日
「姉の島」(村田喜代子 朝日新聞出版 2021年6月)を読む。村田喜代子は1945年生まれだから今年76歳。村田は中卒で鉄工所に務め、22歳で結婚して子ども二人を育てながら小説を書き、1987年に「鍋の中」で芥川賞を受賞している。今どき中卒の芥川賞作家って村田と西村賢太くらいだろう。えらいもんだ。「姉の島」は今年85歳で現役の海女をやっている「あたし」雁来ミツルが主人公。舞台は五島列島と思われる島と島に続く海。海にも台地があったり山があったりする。山が海に突き出たのが島だ。ミツルと幼馴染の小夜子が海に潜るとその昔の遣唐使や太平洋戦争で撃沈された軍艦の水兵などに遭遇する。「長安はこちらの方角でよろしいか」「お尋ね申します。トラック島はどっちでしょうか」といった会話が交わされる。終戦後、五島列島の沖で旧海軍の潜水艦が海没処分された。その潜水艦に二人の老海女が訪れ会話する。何とも幻想的である。最後の三行。
おぅーい、小夜子ォー。
あんたァ、どこへ行ったかよォ。
何や見えぬようになった。じゃが、それももうよかろう……。
8月某日
高血圧の治療で月一回、内科を受診する。クリニックは我孫子南口の中山クリニック。もう20年くらい通っている。主治医の中山先生は東大医学部卒、我孫子は内科医が多いのか、いつも閑散としている。診察といっても「変わりありませんか」「ありません」「では血圧を測りましょう」「最近ちょっと高めなんですが」「そうですね。この程度ならいつものお薬でいいでしょう」「ありがとうございます」「お大事にしてください」で、3分間。近くの調剤薬局で薬を処方してもらう。今日は駅北口のイトーヨーカドーのショッピングモールに寄ることにする。3階の本屋で桐野夏生の「インドラネット」を購入。