モリちゃんの酒中日記 9月その4

9月某日
昼飯にチャーハンをつくる。ニンジン、玉ねぎ、ピーマン、ニンニク、ニラをみじん切りにし、オリーブ油とこめ油で炒める。頃合いを見てご飯と溶き卵を入れる。最後にレタスを入れて胡椒と醤油で味付ける。これがなかなか旨い(と思う)。昼飯を自分で作ったので「プレミアム付き我孫子市内共通飲食券(あびチケ)」を昼飯には使えない。そこで3時過ぎに駅前のレストラン「コ・ビアン」に行って「エビときのこのアヒージョ」とキリン一番搾り中瓶を頼む。合計税込みで924円、「あびチケ」1枚(500円)と残りを現金で払う。公園坂を下って市民図書館へ。週刊誌を斜め読みして自宅へ。

9月某日
図書館から借りた「長女たち」(篠田節子 清朝文庫 平成29年10月)を読む。篠田節子はあまり読んだことがない。しかし篠田の病院ないしは老いに関わる小説を読んだ記憶がある。篠田自身の実母を介護した経験が一部下敷きになっている。本書には認知症の母を介護する出戻り娘の話(家守娘)、ヒマラヤ山系の高地で医療に貢献する女医の話(ミッション)、開業医の一人娘が独身のまま父をサポートし糖尿病に腎臓病を併発した実母を介護する話(ファーストレディ)の3編が収録されている。「家守娘」と「ファーストレディ」は育児と違って終わりを見通せない介護のつらさ、それを背負わされる娘の理不尽な思いが伝わってくる。「ミッション」は善意と熱意でアジアのへき地医療に貢献する女医が、善意と熱意だけでは埋めることのできない溝を現地の人たちに感じる様が描かれる。医療、介護、福祉の問題は制度だけでは片づけられない問題を抱えていることをよく表現できていると思う。だけど「家守娘」の認知症の母が72歳、「ファーストレデイ」の糖尿病と腎臓病を併発する母が60歳前というのは如何なものか?ちょいと若すぎないか。昼飯は駅北口のエスニック料理「レモン・グラス」へ。グリーンカレーを頼む。サラダ、生春巻き、アイスクリームがついて税込み1210円。「あびチケ2枚」と現金で支払う。

9月某日
午後、神田の社保研ティラーレの吉高会長を訪問、噴霧器の販売戦略について話し合う。次いでデスクを借りている御徒町のHCM社へ。コロナ禍がまだ続くようなのでHCM社のデスクから撤退することにしたと大橋会長に伝える。HCM社は三鷹で高齢者向けのデイサービスを運営している。コロナで廃業、休業するデイサービスが多い中で、HCM社はそれらの利用者の受け皿となっているそうだ。会長は大手生保、社長は大手銀行出身なので、組織の運営やビジネス感覚に優れているのだろうと思う。HCM社から同じ御徒町の吉池食堂へ向かう。SMSの長久保君が同社を退社するということなのでその慰労会を年友企画の迫田氏、酒井氏とやることに。30分ほど前に来て文庫本を読んでいるとまず酒井さん、次いで長久保君が来る。長久保君何とか言うITの関連企業に行くと言っていた。私の知らない企業名だったが迫田氏も酒井氏も知っていてその会社のサービスを利用していると言っていた。最近、若い人の話題についていけないことが多い。やはり「老兵は死なず消え去るのみ」(マッカーサー)なのであろうか。

9月某日
「遠い声 菅野須賀子」(瀬戸内寂聴 岩波現代文庫 2020年7月)を読む。菅野須賀子は大逆事件で幸徳秋水らと死刑に処せられた明治時代の無政府主義者である。政治犯、思想犯で死刑にされた女性は菅野須賀子が初めてであろうし、その後も出ていないのではないか。連合赤軍事件の永田洋子は死刑が確定していたが病死した。29歳で刑死した須賀子は本書によれば何よりも恋多き女であった。いくつかの恋愛を経た後、6歳年下の荒畑寒村と恋仲となり結婚する。しかし寒村の入獄中に秋水と親しくなり同棲する。出獄した寒村はピストルを抱いて二人を付け狙ったという。表紙に須賀子の写真が掲げられているが決して美人とは言えない。しかし持てたんでしょう。そういう女の人っているよね。美人ではないが男に人気のある人。須賀子は結核を病んでいて刑死しなくとも早死にしたと言われている。恋と革命に短い一生を燃焼しつくしたともいえる。大逆事件で実際に天皇暗殺を企てたのは須賀子と爆弾を製造した宮下、須賀子に従った新村と古河の4名で、残りの秋水らは冤罪とされる。冤罪を含む多くの死刑判決は明治政府の無政府共産主義に対する恐怖心の表れと思える。須賀子は潔く罪を認め裁判中の態度も立派だったという。「遠い声」の初出は「思想の科学」1968年4月号~12月号に連載された。「文藝春秋」1970年1月号に掲載された古河大作の死刑執行前の独白を装った「いってまいります さようなら」も収められている。解説はアナキズム研究者の栗原康。

9月某日
JR南千住駅で本郷さんと待ち合わせ。千住大橋の東京卸売市場の足立市場に向かう。南千住から市場へ向かう途中、「この辺に東アジア反日武装戦線の大導寺将司とあや子が住んでいたんだよ」と教えられる。大逆事件で刑死した菅野須賀子の本を読んだばかりなので何か因縁を感じる。東アジア反日武装戦線も確か昭和天皇の暗殺を企て荒川鉄橋の爆破計画を立てていた筈だ。それはともかく足立市場は魚専門の卸売市場で今回はそこの食堂で食事をとることに。何軒か食堂が並んでいるなか適当な店を選んで入る。まだ1時過ぎだが客もまばら、ビールと刺身の盛り合わせ、だし巻き卵を頼む。地酒を3本呑んでお勘定を頼むと一人2000円ちょっと。「夜は何時からですか?」と聞くと「夜はやっていません。2時30分で営業終了」とのこと。帰りは本郷さんは南千住からバスで。私は京成線の千住大橋から一駅の町屋で千代田線に乗り換え我孫子へ。我孫子駅前の「しちりん」でホッピーを頂く。

9月某日
HCM社で荷物の整理。大橋社長がパソコンと書籍や書類などを業者に頼んで「送っておきますよ」と言ってくれたのでお任せすることに。神田の社保研ティラーレによって、次回の「社会保障フォーラム」の受付状況を聞く。今回はリモートの応募が多いようだ。御徒町駅で年友企画の石津さんと酒井さんと待ち合わせ。台湾料理の「新竹」へ行く。10分ほど歩いて商店街のちょっと外れにその店はあった。この店は「魯肉飯のさえずり」という本を読んで「魯肉飯」を食べてみたいとパソコンを検索して私が調べた。台湾ビールや前菜、いろんな炒め物、そしてもちろん魯肉飯も美味しかった。石津さんにすっかりご馳走になる。あとで調べたら「新竹」というのは台湾の都市の名前だった。

9月某日
「そこにはいない男たちについて」(井上荒野 角川春樹事務所 2020年7月)を図書館から借りて読む。2組の男女の話。料理研究家の園田実日子は愛する夫が死亡してそのショックから立ち直れないでいる。不動産鑑定士の夫、光一との仲が冷え切っているまりは、マッチングアプリで知り合った青年と付き合っている。下北沢とか三鷹台とか今どきのお洒落なスポットが舞台。ストーリーも面白かったが私には園田実日子の作る料理の描写に興味を魅かれた。井上荒野の小説には料理を題材にしたものがいくつかある。「キャベツ炒めに捧ぐ」や「リストランテ アモーレ」などだ。きっと井上荒野も料理好きなのだろう。