社長の酒中日記 7月その1

7月某日
元厚労省で阪大教授を退官後、今は無職の堤さんと会社近くのビアレストランで呑む。元社会保険研究所で年金時代の編集部にいた吉田貴子さんと呑むことになったので堤さんも誘った。吉田さんは社会保険研究所に入社する前、埼玉の社会保険事務所に勤めていることがあるし堤さんも若いころ社会保険庁の総務課補佐をやったことがあるし、役所の最後は社会保険庁長官だった。6時に堤さん来る。黒っぽいシャツに同系色のパンツ。帽子を目深にかぶって登場。「怪しいねー」と声を掛けると「役所を辞めて10年以上経つんだから好きな格好をさせろよ」と。しばらくして吉田さんが来る。現在は産労研究所で「人事実務」という雑誌の編集長をやっている。年金機構のパソコンがハッカーに侵入されたことについて、係長が案件を抱え込んでいた件など「体質は社会保険庁時代と変わっていない」で一致。当社の迫田とSMSの長久保さんが来る。長久保さんがニッカの「余市」10年ものを持ってくる。スモーキーな香りで美味かった。一本を空けてしまう。

7月某日
1時から理事をやっている社会福祉法人の職員面談に3人ほど付き合う。西村理事長と橋野理事が一緒。職員の3人とも認知症高齢者の介護に熱心に取り組んでいることは十分に分かった。問題は若者のこうした熱意を空回りさせないように、どう経営していくかだと思う。このへんは社会福祉法人も株式会社も変わらないと思っている。昼飯を食べ損なう。5時から大森で「介護職の看取り」でインタビューがあるので早めに大森へ行って、駅の近くのラーメン屋で海苔玉ラーメンを急いで食べる。普段は弁当持参なのでたまの外食もいいけれど、もう少し余裕をもって食べたいね。
大森駅の山王口の鈴木内科医院を訪問。院長の鈴木先生にインタビュー。この間、いろいろな医師にインタビューする機会があったし、私自身5年前に脳出血で倒れ、身近に医者と接した経験がある。そうした経験から言えることは「偉い先生ほどエラソーにしない」ということ。これは何も医者に限ったことではなく人間全般に言えることである。鈴木先生はまさに「エラソー」にしない先生。だからこそ多職種連携も上手く行くのだろう。訪問看護、訪問介護、歯科、薬剤師などとの連携がうまく取れている。先生は「フラットな関係作り」と言っていたが、先生のようなドクターが増えていくことによって日本の医療や介護は確実に変わっていくと思われる。一緒に取材したSCNの高本代表理事と市川理事と地元の百貨店、大信を覗く。帰りに品川駅構内の「ぬる燗佐藤」による。品川から上野・東京ラインで我孫子へ。駅前の「七輪」で焼酎のお湯割りを一杯。

7月某日
ぎっくり腰の治療で神田駅西口の「しあつ村」へ。リンパマッサージを受ける。ここは民介協の扇田専務の紹介。丁寧なマッサージをしてくれるが、たちの悪いぎっくり腰なのか目立った効果かない。HCMの大橋さんの社長就任祝いの日なので小舟町の「恭悦」へ。大橋さんと森さん、それに私の3人でお祝いをする。大橋さんも森さんもいろいろ大変でしょうががんばってください。

7月某日
腰の加減がはかばかしくないので目黒の王先生に中国鍼を施術してもらいに行く。呉先生とは久しぶりだがお元気そうだった。王先生とは20年ほど前、我孫子で治療を受けたのがきっかけ。当時は治療院を持たず出張治療だけだった。それが目黒で治療院を開業し、今では立川と国立にも治療院を持っている。それも腕がいいからだと思う。王先生は中国の温州の出身、確か上海で中国医療を勉強したと言っていた。文化大革命のときの写真を見せてもらったことがあるが、利発そうな美少女の紅衛兵が写っていて、それが少女時代の王先生だった。だが先生一家はインテリで資産家だったらしく文革以降、迫害される。アジアの各地を転々とした後、日本に安住の地を見つけたということらしい。向こうの医学部を出ているだけあってとても頭がいい。日本の鍼灸師の試験も問題集を丸暗記して合格したらしい。娘二人は日本の大学を出て税理士と薬剤師になったようだ。ただ中国共産党嫌いは徹底していて、いつか「尖閣列島問題についてどう思うか?」と問われ、どう答えたものかと思案していると「日本人はもっと中国に対して毅然としなければダメよ」と怒られたことがある。それだけ中国共産党嫌いが徹底しているのである。

7月某日
図書館で借りた「くまちゃん」(角田光代 新潮社 09年3月初版)を読む。角田は割と読む作家だ。角田は67年生まれだから「若手作家」とは言えもう40代後半。でも若者の心情を描くのが巧みだと思う。この連作短編小説集もそう。表題作の「くまちゃん」は古平苑子(23歳)と持田英之(25歳)の恋が、2作目は27歳になった持田と岡崎ゆりえ(28歳)の恋が、3作目は29歳になったゆりえとロックミュージシャン、マキトこと保土谷槇仁も恋が、第4作目は落ち目になったマキトと売れない舞台女優、片田希麻子の恋が……と続く。連作短編の共通点はいずれの恋も成就しないで、別れてしまうことだ。「あとがき」で角田は次のように書いている。「この小説に書いた男女は、だいたい20代の前半から30代半ばである。1990年代から2000年を過ぎるくらいまでの時間のなかで、恋をし、ふられ、年齢を重ねていく。そう、この小説では全員がふられている。私はふられ小説絵を書きたかったのだ」。作者の意図はどうあれ私はこの小説を非常に面白く読んだ。
源氏物語からしてそうなのだが、多くの小説は恋愛がテーマになっている。アクション小説や時代小説にしても恋愛がサブテーマになっていることが多い。ほかの人は知らないけれど、私は思いつめない性格だと思う。そんななかで20代前半の学生運動と恋愛は結構思いつめました。今から思うと学生運動はアクション小説の感覚だったかもしれない。同様にして20代の恋愛は恋愛小説の感覚である(あくまでも私の場合です)。だから40代、50代、60代と恋愛とは縁遠くなっても恋愛小説は読まれるのじゃないかな。恋愛の切実さを現実にではなくを小説に求めるみたいな。

7月某日
亀有の駅前で我孫子の飲み友達、大越さん夫婦と待ち合わせ。亀有の駅前に美味しい焼き鳥屋があるというので誘ってくれた。大越さんは私より1歳上。我孫子駅前の「愛花」の常連。もう10年以上の付き合いになる。仕事は建設業。大手ゼネコンの下請けで設計と工事監理をやっている(らしい)。立石駅前や松戸駅前の焼き鳥屋でご馳走になったこともある。ここは「江戸っ子」という焼き鳥屋で1階は立ち飲み、2階がカウンターで座れるようになっている。待ち合わせ時間丁度に亀有の改札口へ行くと奥さんのさと子さんが待っている。少し遅れて大越さんが来る。今日は東武線の竹ノ塚で仕事だったそうだ。亀有駅の北口には「こち亀」の両さんの銅像があるが、さと子さんは「これ何かしら?」という。人気漫画の主人公の銅像と教えるが、両さんを知らない人もいるんだ。「江戸っ子」に行くと1階の立ち飲み席はすでに満員。2階のカウンター席は座ることができた。大越さん一押しのガツの刺身をいただく。歯ごたえがあって旨い。ホルモン焼き、焼きトンといってもいいが、内臓の料理の醍醐味の一つは歯ごたえだと思う。歯ごたえを保証するのは新鮮さだ。ハツ、レバ、軟骨などをいただくがどれも美味しかった。満腹になったので帰ることにする。大越さんにご馳走になる。