12月某日
根津のスナック「ふらここ」の忘年会。御徒町の中華料理屋「大興」に集合。ママに常連客の大ちゃん、宮ちゃん、みかちゃん、吉武さん、それに私が集まる。宮ちゃんは文部科学省の役人だが上野の科学博物館の勤務が長く、それで根津の「ふらここ」の常連となったようだ。今は佐倉の歴史博物館に勤めている。大ちゃんは確か高松商業の野球部で立命館大に進学、衣料品をデパートに卸す仕事をしていた。2次会は「ふらここ」で。根津で美容院を経営しているカバちゃんが日本酒を持ってやってくる。カバちゃんはパリで美容師の修業をしたという本格派だ。
12月某日
図書館で借りた「戦争まで-歴史を決めた交渉と日本の失敗」(加藤陽子 朝日出版社 2016年8月)を読む。加藤は東大文学部教授。同じ出版社から高校生に太平洋戦争に至る昭和史を講義した「それでも、日本は「戦争」を選んだ」(2010年)を出版している。今回は池袋のジュンク堂書店の提案で、中高生を相手に行った連続講義の記録だ。1章が「ものさし」としての歴史について、2章が「リットン報告書」、3章が「日独伊3国軍事同盟」、4章が「日米交渉」、そして終章という構成になっているのだけれど、私にはとても新鮮に感じられた。普通の歴史の本って起こったことをたんたんと叙述する。まぁたんたんと叙述する以外に歴史の方法はない、講談じゃないのだから。でもこの本では加藤は、中高生に資料を読ませ、その意味を問い考えさせる。歴史とは叙述されたひとつの事実の背景に無数と言ってもよい事実が積み重なっている。それは陸海軍それぞれの内部事情であったり、国民感情であったり、生産力であったりする。つまり加藤にかかると歴史は事実の断片をつなぎ合わせただけでなく、もっと重層的で複雑な積み木細工の様相を呈してくるのだ。加藤陽子、恐るべし!
12月某日
待ち合わせの時間に少し余裕があったものだから駅近くのブックオフに寄る。文庫本の棚を見渡すと鷺沢萠の文庫本が3~4冊並んでいた。鷺沢萠の小説は私が40代から50代のころよく読んだ記憶がある。硬質な文体とそれに潜むある「切実さ」のようなものに惹かれたのだろうと思う。新潮文庫の「失恋」(定価400円が260円!)を買って読む。題名からして恋愛もの。今の私には縁遠いがそれでもそれなりに面白くは読めた。鷺沢は2004年、今から12年前に目黒区の自宅で自殺している。35歳だった。鷺沢萠という今は半ば忘れ去られた作家について少し触れておきたい。ウィキペディアによると彼女は上智大学外国語学部ロシア語学科中退、1987年に「川べりの道」で第64回文学界新人賞を受賞、1990年代には矢継ぎ早に作品を発表している。後に父方の祖母が韓国人であることを知り、これを契機に韓国に留学する。ヘヴィースモーカーで麻雀好きだったらしい。もともと繊細だった精神が自身のルーツの一つに「韓国」という存在があることを知り、さらに磨かれたのではないかとさえ思う。早すぎる死をいたましく感じる。
12月某日
「物語の向こうに時代が見える」(川本三郎 春秋社 2016年10月)を読む。作家論、作品論なのだが、私が未読の本も非常に魅力的に論じているし、私が好きな柳美里や桜木紫乃の作品についても的確に批評している。川本は麻布高校から東大法学部、朝日新聞社というエリートコースを歩むが、赤衛軍を名乗る日大生の朝霞自衛官殺害事件にからんで逮捕起訴され、朝日新聞社を懲戒解雇された。こうした過去が川本の評論活動に独特の陰影を与えたと言っていいのではないか。
「顧問の酒中日記」はこれで最終。新年からは「モリちゃんの酒中日記」(仮)とでもして、会社のホームページとは別に公開するつもりです。よろしくお願いします。
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