社長の酒中日記 11月その3

11月某日
トランプ大統領の誕生はグローバリゼーションの恩恵が一部の階層にのみ集中し、労働者階級(とくに製造業の労働者)にまで行きわたっていないことの表れだと思う。トリクルダウン理論(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がしたたり落ちる)は、経済理論としても間違っていると思うし、トランプ政権も自らの支持基盤に配慮してトリクルダウン理論は執り得ない。従ってトランプ政権は内政的には所得の再配分政策を強めざるを得なくなると私は予想する。外交面では内向きの傾向になるし保護貿易の指向も強まるのではないか。億万長者のトランプを大統領にした共和党政権は、所得の再分配と保護主義という民主党的な政策をとらざるを得ないという皮肉な結果を生むだろう。
市川福祉公社から女性が2人、シミュレータを見学にHCM社を訪れる。反響は上々、HCMの大橋社長、開発者の土方さんは自信を深めたと思う。終わってからHCMの三浦さん、当社の迫田、酒井を交え会社近くの「跳人」で反省会。

11月某日
社会保険研究所のグループ経営会議。会議後、神田駅南口の居酒屋でグループ各社の経営幹部と呑み会。2次会で近くの葡萄舎へ。最初は数人と吞むつもりだったがほとんどの人がついてきたので葡萄舎にしては大宴会に。

11月某日
買ったままで読まずにいた「吉本隆明1968」(鹿島茂 平凡社出版 2009年5月)を読む。鹿島は1949年生まれ、68年に東大入学。ということは私と同世代。私は1948年生まれで一年浪人して68年に早稲田に入学した。待っていたのは学生運動とそれまで読んだこともない本の読書体験だった。吉本隆明も埴谷雄高も黒田寛一も大学に入って初めて読んだ。というか大学に入るまでは彼らの名前も知らなかった。鹿島は「はじめに」で吉本世代の心の支えとなった論文集として「擬制の終焉」「抒情の論理」「芸術的抵抗と挫折」「模写と鏡」をあげている。吉本隆明の思想の本質は「言語にとって美とは何か」「共同幻想論」「心的現象論」といった主著にはなく、「擬制の終焉」などのポレミックな論文集にあるというのだ。私は「言語にとって美とは何か」も「共同幻想論」も読んだことは読んだのだが、中身はよく理解できなかったというのが正直なところである。むしろ鹿島のいう「ポレミックな論文集」に大きな影響を受けた。私のささやかな全共闘体験とその挫折は吉本を読んだ体験とほぼパラレルになっていると思う。それにしてもと私は鹿島のこの本を読んで改めて思う。「吉本隆明はやっぱり戦後思想界の巨人だ」と。

11月某日
早大全共闘の1年先輩が高橋ハムさんこと高橋公さん。69年の4月17日、ハムさんや後に群馬大学の医学部へ進学した基司さんや辻さんなど40人ほどで革マル派が戒厳令を敷いていた大学の本部構内を突破、そのまま大学本部を封鎖した。これは私の全共闘体験のなかでも数少ない勝利体験だ。ハムさんは大学中退後、呑み屋の用心棒や魚河岸で働いた後、自治労の書記に採用され、今は「ふるさと回帰支援センター」の確か代表理事だ。そのハムさんから「今夜空いているか」との電話。指定された店に行くと内閣の「まち・ひと・しごと創生本部」の唐澤さんと北海道の上士幌町の竹中町長が来ていた。竹中さんは自治労出身ということだった。少し遅れて今は小豆島の町長をやっている元厚労省の塩田さんが来る。ハムさんにすっかりご馳走になってしまった。

11月某日
運営に関わっている地方議員向けの「地方から考える社会保障フォーラム」。初日は慶応大学の井手英策教授、SCNの高本真左子代表理事、それに前の日高橋ハムさんと一緒に呑んだ唐沢剛内閣府地方創生総括官。唐沢さんとは彼が荻島企画官の下で係長をしていたときに知り合った。知り合って間もないころ「モリちゃん、おんなじ大学同士だから仲良くしようよ」と言われたので「よく間違われるけど俺は東大じゃないよ」と答えたら「違うよー早稲田だよ」と言う。その頃は早稲田を出て中央官庁のキャリアになる人は珍しかった。フォーラムにはケアセンターやわらぎの石川はるえさんも参加してくれたので意見交換会のあと、神田の結核予防会の竹下専務と高齢者住宅財団の落合さんが吞んでいる葡萄舎へ。