モリちゃんの酒中日記 1月その4

1月某日
10年程前までよく通っていたのが新宿の「ジャックの豆の木」というクラブ。10年ほど前に廃業してマスターの三輪ちゃんは、奥さんの故郷の鹿児島県に引っ越した。携帯メールに上京するという知らせが。神田駅西口の改札で待ち合わせ、「葡萄舎」へ。三輪ちゃんと2人で呑むのは初めてだが、共通の知人が多いので話題は尽きなかった。三輪ちゃんは私より1歳上の昭和22年生まれというのも初めて知った。ということは20代で新宿歌舞伎町のクラブのマスターをやっていたわけだ。

1月某日
図書館で借りた佐藤雅美の物書同心居眠り紋蔵シリーズ「老博打ち」(講談社文庫 2004年7月 単行本は2001年3月)を読む。八丁堀同心の紋蔵には所かまわず居眠りするという持病があり、同心の花形である「定廻り」には配属されず、内勤である「物書同心」を務める。江戸時代の司法制度では裁判官と捜査、検察が町奉行に統合されていたため「物書同心」は警察、検察の取調べの書記と裁判記録の管理を任されていた。紋蔵の記憶力と推理力によって事件は解決していくのだが、私がなぜ佐藤雅美の時代小説に惹かれるか考えてみた。人はしがらみを抱えて生きる。それは江戸時代も現代も同じである。だが現代のしがらみを描くとなるといろいろな差し障りが出てくる。そういうこともあって時代を200年ほどさかのぼったと思うのだが、そこで重要になるのは小説の細部のリアリティである。佐藤雅美の小説はそこが圧倒的に優れていると思う。

1月某日
「モリちゃんの社長退任を祝う会」を霞が関ビルの東海大学校友会館で。100人を超える参加者があった。ほぼ自作自演で私が仕掛けたパーティですが、本当に多くの人に参加してもらってうれしかった。受付をやってくれた石津さんや司会をやってくれた岩佐さんをはじめ協力してくれた社員の皆さん、名簿や領収書を作ってくれた健康生きがいづくり財団の大谷常務やティラーレの佐藤社長、サキソフォンの演奏をやってくれた荻島夫妻、その他多くの人に感謝である。

1月某日
「血盟団事件」(中島岳志 文藝春秋 2013年8月)を図書館で借りて読む。血盟団事件とは1932(昭和7)年に起きた連続テロ事件で、元大蔵大臣の井上準之助と三井財閥の総帥の団琢磨が射殺されている。事件の起きる前の昭和初期は、デフレによる不況が長引き、農業も全般的に振るわず、社会不安が高まっていた。そこに登場したのが法華経に依拠する井上日召が率いる思想集団であった。「世の中をかえる」ために「一人一殺」のテロリズムを実践する。著者の中島は「あとがき」で「私は、血盟団事件を追いかけながら、どうしても現在社会のことを思わざるを得なかった。格差社会が拡大し、人々が承認不安に苛まれる中、政治不信が拡大し…‥1920年代以降の日本とあまりにも状況が似ている」と書いている。同感である。IS(イスラム国)に魅かれる若者にも血盟団に魅かれる若者にも、同じような心情が潜んでいるのではと思うのだが。

1月某日
帰りの電車を亀有で途中下車。駅前に本屋があったので寄る。古本もエロ本も売っている下町の小さな本屋さん。こういう本屋さん好きだなぁ。エロ本を買おうと思ったけどまだ日が高いので止めておいた。文庫本を1冊買って居酒屋「白虎隊」に入る。日本酒をちびちび飲んでいると携帯に電話。荻島さんの奥さんの道子さんからで「いろいろありがとう」と礼を言われる。良太君にサックスの演奏をお願いしたことを言っているようだがとんでもないこと。参加者にとても喜んでもらえたし、私は道子さんからお礼を言われてとてもうれしかった。