10月某日
浅田次郎の「勇気凛々ルリの色 福音について」(講談社文庫 2001年1月)を読む。「週刊現代」1996年10月19日号~1997年10月25日号に連載されたものが1998年2月に講談社により単行本化されている。初出は今から20年前である。少しも古びた感じがしないのは著者の瑞々しい感性のためであろう。自身の老化やハゲについての自虐的なネタも面白いがときどき間違ったように挿入される真面目ネタがいい。「老師について」は北京の胡同に昼は子どもたちに数学を教え、夜は日本語の書物の翻訳に没頭する李啼平(リイ・テイピン)先生のことを綴る。先生は戦前に慶應大学で法律を学び、その後北京で教鞭をとるが文化大革命で財産は没収され一家は離散する。しかし先生は微塵も気品を失わせはしない。作家は「漂い出る清廉さのみなもとは、学問の尊厳と、それを希求してやまぬ学者の魂だけなのであろう」と表現する。年長のいとことの死別をテーマにした「ヒロシの死ついて」、14歳が小学生を殺害し、頭部を切断して学校の校門に晒した事件に触れた「アンファン・テリブルについて」もいい。浅田は中高一貫教育の進学校、駒場東邦に進学、高校1年のとき忽然と姿を消し、中央大学付属杉並高校に転じる。大学受験に失敗し自衛隊に入隊、除隊後は極道人生を送るが、小学生以来の作家志望はずっと変わらなかった。大学には行かなかったが浅田の和漢洋の教養にはなまじの大学出は及ぶまい。
10月某日
元社会保険庁長官で阪大教授もやった堤修三さんとニュー新橋ビルの「いろり屋」で待ち合わせ。堤さんは「厚生行政のオーラルヒストリー 堤修三」という報告書を持ってきてくれる。これは立教大経済学部の菅沼隆氏が研究代表を務めて、歴代の厚生省幹部にインタビューしたものの1冊。A4で200ページ近くある。「読んでよ」と言われたが笑ってごまかす。遅れて健康生きがい財団の大谷常務が参加。私、堤、大谷は昭和23年生まれ、全共闘体験という共通項がある。大学は違うけどね。
10月某日
年友企画の迫田女史と南阿佐ヶ谷のケアセンターやわらぎに石川はるえ代表理事を訪問。配偶者特別控除が女性の社会進出を妨げ、介護の人材不足を助長しているとして「社会保障の構造改革より、社会の構造改革が必要よ」と叫ぶ。もっともである。
桐野夏生の「新装版 天使に見捨てられた夜」(講談社文庫 2017年7月 単行本は1994年6月、1997年6月文庫化されたものの新装版)を読む。女探偵、村野ミロシリーズの2作目。桐野夏生は好きな作家でほとんどの作品を読んでいると思っていたが本作は読み落としていた。20年以上前の作品。携帯電話やパソコンの普及する前なので赤電話やワープロといった言葉が時代を感じさせるが、内容は全く古びていない。最初に文庫化されたときの解説で、松浦理英子が桐野の取り組んでいる主題を「恋愛と性愛をめぐる主題」として、「男性に依存せず自分の人生を主体的に営んで女性は、いったいどのような恋愛をし、どのような性生活を持つのだろうか」という問題意識に支えられているとしている。なるほどね。私が田辺聖子や林真理子といった女流作家に魅かれるのもそんなところかもしれない。そういえば石川はるえさんも「男性に依存せず自分の人生を主体的に営んでいる女性」である。
10月某日
元社会保険庁長官で年住協の理事長もやった末次彬さんに誘われて両国国技館に行く。末次さんのゴルフ友達である高根さんがチケットを入手してくれた。両国駅のホームで高根さんと待ち合わせ、開場まで少し時間があったので国技館付近を散策。高根さんは地元の観光協会のボランティアガイドをしているので船橋聖一の誕生の地などを案内してくれる。相撲は地元の幼稚園園児と関取との取組みや相撲甚句、横綱5人掛かりなど、普段の場所では見られないアトラクションが面白かった。4時前に終了したので2人とは両国駅で別れる。元年住協の林弘之さんに連絡、新松戸でのむことに。新松戸の「ぐい吞み」に行く。ここは稀勢の里を贔屓にしている店なので、女将さんに相撲見物を報告する。
10月某日
明日から3連休。夜の予定が入っていないので我孫子へ直帰。駅前の「七輪」に寄る。「愛花」にはしご。常連の坂田さんに会う。「愛花」がオープンしたのは15年ほど前。ママと亡くなった常連さんの話になってややしんみり。
10月某日
今日から3連休。テレビをザッピングしているとBSで「ローマの休日」をやっていた。オードリー・ヘップバーン扮する某国の王女がローマを訪れ、偶然、アメリカの新聞記者(グレゴリーペック)と出会い、恋に落ちるというストーリー。王女はホテルへ戻り記者会見に臨む。グレゴリーペックを見つめながら「ローマの思い出は生涯忘れないでしょう」と語る。会見場を大股で後にするグレゴリーペックにエンドマークが重なる。何度観てもいいですねー。林真理子の「東京」(ポプラ文庫 2008年12月)を読む。林真理子は山梨出身。地方出身者の東京に対する独特の感覚をとらえるのが巧み。