1月某日
図書館で借りた「吉田松陰の時代」(須田努 岩波現代新書 2017年7月)を読む。吉田松陰の評伝を読むのは、は小学校のとき学校の図書館で借りた偉人伝シリーズ以来。内容は覚えていないけれど同級生の佐藤寿男君(秀才、後に東北大学に進学)が「ヨシダマツカゲ」と読んだことを思い出す。著者の須田は日本近世史、近代史を専攻する明治大学情報コミュニケーション教授。幕末の長州藩、山鹿流兵学師範の家に生まれた吉田松陰は維新の英雄を輩出した松下村塾を主宰し、30歳にして安政の大獄で処刑された……程度の知識しか私は持ち合わせていない。しかし高杉晋作、久坂玄瑞、伊藤博文、山県有朋、前原一誠らが松下村塾に学び、松陰の考えや行動に大いなる影響を受けたのは事実であろう。須田は後世、神格化された松陰像からできる限り余分な修飾を剥ぎ取り実像に迫ろうとする。
松陰は文政13年8月に生まれる。西暦では1830年、7月にはフランス7月革命が勃発し9月には維新の元勲、大久保利通が生まれている。4年後の1834年には江藤新平、橋本左内、近藤勇が生まれているが、近藤は戊辰戦役の渦中に官軍に捕縛され斬首、江藤は佐賀の乱に敗れ処刑、橋本は松陰と同じく安政の大獄に連座し刑死している。幕末の志士のなかには、運よく明治維新を乗り切って名誉や財産を手に入れた人も多くいたであろうが、志、半ばにして死んでいった人も少なからずいたのである。松陰もその一人である。さて本書を読んだ感想であるが、松陰は尊王攘夷の思想家としては未熟、革命家としては軽率、教育者や指導者としては未完と言わざるを得ない。しかしその現場主義~足跡は長崎、平戸から水戸、仙台、弘前にまで及んでいる~とことに当たる純真さには驚嘆せざるを得ない。未熟さや軽率さは「青春」の美質と言えないこともないのである。
1月某日
「音楽運動療法研究会」を新宿駅南口の貸会議室で。会場に行くと事務局長の宇野裕さん、委員長でドクターの川内先生がすでに来ていた。音楽療法士の丸山さん、研究のスポンサーである社福協の本田常務、特養の施設長の黒沢さん、依田さんが来て全員が揃う。音楽療法は多くのデイサービスなどの高齢者施設で実施されているが、言葉の定義そのものが曖昧なうえ効果測定も十分になされているとはいえない。この研究が「音楽運動療法」にスッポトがあたるきっかけの一つになればと思う。研究会を終えて近くの台湾料理の店「夜来香」で新年会を兼ねた食事。日曜日の夜にもかかわらずお店は満員なだけあって、料理はとてもおいしかった。依田さん、黒沢さんの現場の話はとても刺激的だった。介護保険の施設として介護医療院というのが新設されることになったが、現場の2人からは疑問の声が。こういう話を聞けるのはとても貴重。
1月某日
HCMの平田高康会長を偲ぶ会を霞が関ビル35階の東海大学校友会館で行う。4時スタートだが会場の確認があるので30分ほど前に会場へ。長男の高也さんが遺影を持ってきてくれる。年住協の川崎元理事長の献杯の挨拶で会はスタート、社会保険研究所の川上会長の挨拶に続いてHCMの川島美幸取締役がしんみりと平田会長を偲ぶスピーチをしてくれた。HCMの元常務の中村さんはじめHCMの元社員やカメラマンの和田さん、結核予防会の竹下さんが会長の思い出を語ってくれた。HCMの大橋社長はインフルエンザで急遽出席できなくなったのでメッセージを私が代読、最後に高也さんが謝辞を述べて会はお開きに。平田会長の人柄があらわれた温かい「偲ぶ会」であった。
1月某日
「消費低迷と日本経済」(小野善康 朝日新書 2017年11月)を読む。小野は東京工大社会工学科出身で大学院は東大、博士号は東大から経済学博士。今までの言動からすると正統派のケインジアンの印象が強い。と言っても私がケインズ経済学に造形が深いわけではないので、「不況のときは政府が公共投資でじゃんじゃん金を使うべき」と言っていたような記憶がするだけなのだが。私は戦後最長とも言うべき景気回復局面を迎えていると言われながら、実感に乏しいのは多くの庶民が認めるところだろうし、2%という物価上昇の目標も依然として達成できていない現実とのギャップ、それを小野善康はどう解くのかという興味から本書を読み始めた。日銀が異次元の金融緩和で金利を引き下げ、貨幣量の流通を増やしても物は売れず、物価も賃金も上がらない。小野によれば物不足の時代、高度経済成長期ならばこの理論は通用したが、とりあえず物はそろっていて人々はお金を持っている今、この理論は通用しない。この辺りは水野和夫の経済理論とも似ている。小野は菅直人の水野は仙谷正人の経済ブレーンを務めているから二人とも民主党系? 小泉内閣のブレーンだった竹中平蔵、安倍内閣の参与を務める浜田宏一などは新自由主義になるのだろうか?それはともかく、小野の消費税を上げて公共サービスを質量とも確保すべしという主張はうなずける。小野は成熟社会におけるあるべき財政支出の特徴として①生産力の増強や金儲けではなく、国民の生活の質の向上に結びつく②民間の製品の代替品でない③安定した雇用創出を継続的に保証するものとしている。芸術・観光インフラと並べて教育・保育・医療・介護・健康を上げている。同感である。