モリちゃんの酒中日記 3月その4

3月某日
春分の日。日本医大病院に。「愛花」の常連の福田一三さんが入院している。偶然だけれど「青海社」の工藤良治社長も入院しているので、休日だし両方まとめて見舞いに行くことにする。2人ともこれまた偶然に東館の2階に入院していた。福田さんは昔、足の手術をしたとき入れた金属を取り換えることになったそうで1月に入院、4月の初めには退院できるそうだ。幾分ほっそりして元気そうだった。工藤さんは3月に脳出血で倒れ日医大病院に入院した。私の経験から「障害者」の認定と「要介護認定」を受けられることを説明。本人によると社員が辞めたりしてすごく忙しかったのが原因という。「私は基本的に年金生活者だから手伝えることは手伝うよ」と声を掛ける。日医大病院は千代田線の根津駅と千駄木駅のちょうど中間にある。行きは根津駅から来たが、帰りは千駄木の「よみせ通り」商店街から「夕焼けだんだん」に抜け、日暮里から常磐線で帰った。

3月某日
浜矩子の「『通貨』の正体」(集英社新書 2019年1月)を読む。著者は基本的には経済学の人で、一橋大を卒業後、三菱総合研究所に入所、ロンドン駐在員事務所長を経て現在、同志社大学大学院ビジネス研究科の教授だ。だから経済学の人であるの間違いないのだが、この人の本を読むとその半端ではない教養に驚かされる。本書でも「不思議の国のアリス」やシェイクスピアからの引用(それも著者の訳で!)やオペラ「トスカ」を日本通貨の「円」になぞらえたりしている。著者は英国駐在の商社マンの父について、小学校はロンドンだったらしい(この辺の私の記憶は曖昧)。そのせいか広い視野ととらわれないフラットな視点が魅力だ。本書のテーマである通貨については「通貨は、人がそれを通貨だと認定しなければ、通貨にならない」「金(きん)という金属もそうだ。金は金だったから通貨になったわけではない。人がそれを通貨扱いするようになったから通貨になったのである」(いずれも第1章)といきなり本質論から始まる。EUの共通通貨である「ユーロ」の先行きや、「仮想通貨」の問題点、IMFの「SDR」の本質などについて著者の筆は鋭く迫るのである。

3月某日 
TKP新宿カンファレンスセンターで「介護×音楽療法研究会」。今年度最後なので時間は3時間を予定。この場所はいつも迷うので時間に余裕をもって10分前に会場へ。会場に着くと座長で医師の川内基裕先生、事務局の宇野裕さんが来ていた。定刻前に委員5人が揃う。ホームヘルパー協会東京支部の副会長の黒澤加代子さんから訪問介護における音楽を取り入れたケアの実証実験の報告がされた。スマホを使った音楽検索が利用者にたいへん好評だったという話が印象的だった。要介護度の改善までの効果は見られなかったものの「笑顔が見られた」「会話がスムーズになった」などの効果があったとの報告がされた。特別養護老人ホームの苑長の依田明子さんからは特養入居者に対する実証実験の結果が報告された。特養の入居者は在宅に比べると重度化が進んでいる印象。それでも音楽を聴くと手拍子をとったり口ずさんだり表情が変化したりと、入居者の「気分」がよくなっていることが分かった。私はこの研究会に参加して2年になるが、高齢者というか人にとって音楽とのかかわりの奥深さを感じないではいられない。弁当を挟んで研究会は3時間に及んだが結論は出ず、場所を四川料理の店に移して1時間ほど議論。
実はこの研究会に参加する直前、我孫子市民図書館で借りた「音楽療法はどれだけ有効か-科学的根拠を検証する」(佐藤正之 化学同人社 2017年6月)を読んでいた。著者は音楽学部の器楽科を卒業した後、音楽教師を経て医学部に入学、三重大学大学院医学系研究科博士課程修了という経歴を持つ変わり種。現在は同大学院の認知症医療学講座准教授で付属病院の音楽療法室室長で神経内科医である。著者は音楽療法を含む認知症の非薬物療法の長所として①日常生活での活動がそのまま治療になりうる ②患者や介護者の社会生活の改善につながる ③医療職でなくとも施行可能で施設や自宅でも活用できる、としている。本書を読んで初めて知ったがEBMの情報インフラに「コクランライブラリー」というのがあって認知症に対する音楽療法の効果がレビューされていて、報告数は多くないが、認知症の中核症状に対する音楽療法の有効性を示す報告がされているという。著者は、音楽には汲めども尽きぬ力がある。医学と音楽の境界がなくなり、両者が一体となって患者に提供されるようになったとき、音楽療法は本当の意味で現場に根ざすと言っている。

3月某日
東海大学校友会館で「平成最後の桜を見る会」の打ち合わせ。大谷源一さんにHCMに来てもらう。2人で有楽町の交通会館にある「ふるさと回帰支援センター」の高橋ハムさんを訪問、「早大闘争50周年の集い」の打ち合わせ。大谷さんと別れ私は上野へ。不忍口で元年住協の林弘幸さんと待ち合わせ。松戸で呑むことを提案し松戸へ。林さん推奨の「日本海」へ行くが予約でいっぱい。西口の焼き鳥屋へ入る。昭和の香りがする店で常連客が大半。満足して帰る。

3月某日
社会福祉法人にんじんの会(石川はるえ理事長)の評議員会が19時から立川であるので虎ノ門から銀座線に乗り、赤坂見附で丸ノ内線に四谷で中央線に乗り換える。四ツ谷駅で同じ評議員の中村秀一さんに会う。東京駅で何かトラブルがあったらしく中央線に遅れが出て、四ツ谷駅のホームも大混雑。やっとホームに着いた電車に中村さんは何とか乗車できたが、私は乗れず仕舞い。次の電車で行くことにする。次の電車も遅れに遅れて評議員会の会場に着いたのは30分遅れ。評議員会は中村さんを議長にすでに進められていた。石川正紀常務の報告を聞いた後に各事業所からの報告があって評議員会は無事修了。近くのお寿司屋さんで懇親会、バーに席を移してジントニックを一杯飲んだところで石川理事長がタクシーを呼んでくれたので私と吉武民樹さんは帰ることにする。

3月某日
「平成最後の桜を見る会」を霞が関ビル35階の東海大学校友会館で。ここ2回ほど赤字が続いたので会費は1000円値上げして9000円に。受付は神山さんにお願いしたが神山さんにも会費を頂いているので、18時過ぎには年友企画の酒井佳代さんに受付を頼む。今回はNPO法人「楽」の柴田範子理事長や弁護士法人「フェアネス法律事務所」の遠藤代表弁護士も参加してくれて盛り上がる。今回は黒字になる。

3月某日
常陽カントリー倶楽部で末次彬さん、高根和子さんとゴルフ。吉武民樹さんは新しい大学での用事があるとかで欠席。いつもは吉武さんの車に乗せてもらうのだが、この日は息子に運転してもらう。ゴルフは行く前は多少億劫感があるのだが、行くとやはり楽しい。5月もいくことを約束する。帰りは末次さんの車で家まで送ってもらう。高根さんからお土産まで頂いてしまい重ね重ね恐縮です。

3月某日
「AI×人口減少-これから日本で何が起こるのか」(中原圭介 東洋経済新報社 2018年11月)を読む。人口減少もAIも最近の私が気になっているテーマ。中原圭介という人の本は初めて読むがなかなか鋭い指摘が随所に見られる。私が感心したのは「第4次産業革命の隆盛によって生産性を上げる企業が次々と現れてくれば、富裕な資本家や投資家は株価の上昇によって大いに喜ぶことになるでしょう。しかしその一方で、失業から生活苦に陥る人々が増加の一途を辿り、格差の拡大が史上最悪の水準を更新するという事態も避けられなくなるでしょう」というくだり。AI等の技術革新によって社会の生産性は飛躍的に高まるが、問題はその果実を手にするのは誰かということだ。技術革新を手放しで喜んでばかりはいられないのである。