モリちゃんの酒中日記 5月その2

5月某日
「おもかげ」(浅田次郎 毎日新聞出版 2017年12月)を読む。長年勤めた商社を退職した竹脇は、後輩が開いてくれた慰労会の帰途、地下鉄丸ノ内線の車内で倒れ近くの病院に救急搬送される。竹脇を見舞いに来る同期入社で現社長の堀田、幼馴染のトオル、集中治療室の隣のベッドのカッちゃんなど通して竹脇の半生が明らかにされる。竹脇は1951年生まれだから作者の浅田と同年である。竹脇は孤児として施設で育つ。その仲間がトオルで、竹脇の一人娘の夫はトオルが社長を務める土建屋の少年院帰りの若い衆である。竹脇は新聞販売店に住み込みで働き、難関の国立大学に入学、商社に入りニューヨークや中国駐在員を務める。社長にはなれなかったが定年時は関連会社の役員だったから、商社員としてはまぁまぁの出世である。孤児から一流商社員とならば「まぁまぁ」どころか「たいした」出世かもしれない。私からすれば浅田の現代を舞台にした小説は現代の「おとぎ話」である。だがそのおとぎ話には浅田の様々な体験が埋め込まれている。浅田の実人生は親の事業失敗で一家離散も経験している。その後、一家は再び一緒になることはなかったという。孤児の孤独や世間の温かさと冷たさを描くとき、浅田の実人生が反映されていない筈がない、と私は思う。

5月某日
10連休が終わって7日の火曜日である。世間は仕事にスイッチが入ったが私はまだ。厚労省OBの高根和子さんに誘われてゴルフ。ゴルフ場は成田のPGM総成ゴルフクラブ、7時に我が家まで社保庁OBの中西さんに迎えに来てもらう。我孫子からゴルフ場まで車でほぼ1時間。上りは連休明けということもあって結構混んでいたが、下りはスムーズに行けた。少し遅れて高根さんと末次さんが到着。総成ゴルフクラブは植栽や樹木の手入れも行き届いてきれいなコースだ。天気も曇天だが暑くも寒くもなくちょうど良し。スコアは数えないことにしています。料金は「セルフ昼食付パック」8449円。割安感強し。ゴルフは行く前は多少億劫に感じるのだが、実際にやってみるとスコアは別にして「やってよかった」となるのが最近の傾向。今回も高根さんに「誘ってくれてありがとう」だ。

5月某日
大学時代の同級生、岡君、雨宮君、内海君それと同じクラスではなかったが女子の関さんと早稲田の「志乃ぶ」で会食。「志乃ぶ」は4月に「早大闘争を振り返る会」の2次会で行った店で私が予約しておいた。根津駅前から都バスに乗って本駒込、千石、護国寺経由で早稲田へ。店に着くと全員が揃っていた。内海君はイタリヤで現地の自動車関連企業のアドバイサーをやっており、里帰り中。昔からコスモポリタン的な雰囲気のある男だったが、そこらへんは50年たっても変わらない。早稲田から都電で町屋へ、町屋から千代田線で我孫子へ。

5月某日
机を借りているHCM社の大橋社長と新橋烏森神社すぐのちょいと洒落た居酒屋へ。最近の小洒落た居酒屋の特徴は店主ならびに店員が若くて愛想がいいこと、料理にも工夫がされていることではなかろうか。この店も突き出し、料理が美味しかったが何を食べたか忘れてしまった。お店の名前も覚えていない。大橋社長にすっかりご馳走になってしまったが、店名を忘れては申し訳ないじゃないか!喝!ですね。我孫子へ帰って「愛花」に寄る。

5月某日
「インサイド 財務省」(読売新聞経済部 中央公論新社 2019年3月)を読む。旧大蔵省は役所の中の役所と呼ばれ、他の省庁とは別格の存在だった。その力の源泉は各省庁から出せる予算要求を査定し、政府予算案として国会に提出する権限を事実上握っていたからであろう。しかし安倍政権になってその力は幾分、陰ってきたように思われる。財政再建という至上命題から予算のバラマキは許されなくなっている。各省庁の予算は社会保障関係を除くとこの10年ほどほとんど伸びていない。各省庁の新規事業の概算要求を査定するという旧大蔵省主計官の存在意義はだいぶ薄れてきたのではないだろうか。それに加えて森友学園に関わる文書の改ざん問題、さらには福田元次官によるセクハラ疑惑も財務省の威信低下に拍車をかけている。「あとがき」を読売新聞東京本社の矢田俊彦経済部長が書いている。矢田の亡父はNHKの経済部長を務めた人で、亡父の遺稿を「あとがき」で紹介している。「国民の信頼を得るためには、たとえ困難であっても、国民に真意を理解させることが不可欠なのだ。官僚はこの作業を怠ってはならない」「官僚の道を選んだのは、権力欲のためではないはずだ。日本という国をよりよい国にしたい、日本国民に幸福になってもらいたい。そのために、己の能力を国家官僚として十分に発揮したい。そう考えてのことであろう。その官僚としての初心を貫いて欲しい」。

5月某日
ネオユニットの土方さんがHCM社に来社、HCM社の大橋社長と3人で「胃ろう・吸引シミュレーター」の販売について話す。私としてはこの商品はまだまだ「商品力」があると思っているのだが、そのためにも「ひと工夫」が必要ではないか、というのが土方さんの意見。その通りと思う。終って新橋の青森料理のお店「おんじき」へ。6時前から9時過ぎまで3人で呑む。大橋社長と土方さんにすっかりご馳走になる。

5月某日
「風花」(川上弘美 集英社文庫 20011年4月)を読む。主人公の「のゆり」は夫の卓哉との2人暮らし。卓哉の浮気が発覚、2人の関係は微妙に。そのさなか卓哉の転勤で2人は関西へ。のゆりは医療事務の資格をとり歯科医院でアルバイトし自活の道を探り、卓哉とは別居する。恋愛小説なんだろうけれど川上弘美の小説らしくストーリーは淡々と流れる。「淡々」「あっさり」が川上の魅力と私は思う。これは川上の理科系(お茶の水女子大学理学部卒、確か高校で教師をしていた)という出身から来ているのかも。