モリちゃんの酒中日記 11月その4

11月某日
新橋の「うおまん」で早稲田大学政経学部の同じクラスだった岡超一君と雨宮英明君と呑み会。政経学部でクラスは違ったが同じ学年の関友子さんも一緒。岡君は卒業後、第一志望だったデパートの伊勢丹に就職、定年まで勤めあげた。雨宮君は内定していた生命保険会社を蹴って司法試験に挑戦、合格後検事に任官し今は「辞め検」で新橋の弁護士ビルに事務所を開いている。関さんは多分、卒業していない。確かエレクトーン奏者を経て新宿にクラブを開業、後に赤坂に移った。学部のクラスは選択した第2外国語で分けられ私たちのクラスはロシヤ語だった。ひとクラス50人から60人くらいはいたと思うが私たちのクラスは民青(日本民主青年同盟、日本共産党系の青年組織)が強く、クラス委員選挙で私はいつも民青の清真人君に負けていた。清君は後に近畿大学の哲学の教授となったが、清君の奥さんは同じクラスメートの近藤百合子さんだ。雨宮君の息子さんが今年早稲田大学の法学部へ進学、奥さんと一緒に早稲田祭に行ってきたそうだ。

11月某日
浅田次郎の「わが心のジェニファー」(小学館文庫 2018年10月)を読む。主人公のローレンス・クラーク(ラリー)はマンハッタンのアッパー・ウエストサイドで暮らすサラリーマン、職場はウォール街の投資会社。ラリーの幼いころに両親は離婚、ラリーは祖父母に育てられた。祖父は退役の海軍少将で第二次世界大戦への従軍経験を持つ。ラリーの恋人ジェニファーは「ニューヨークで一番のソーシャライツで、ゴージャスで、美貌と教養を兼ね備え」ているとラリーは信じて疑わない。ソーシャライツって社交界の名士の意味だってこの本で初めて知った。やたらたとカタカナの英語が出てくるのもこの小説の特徴だが、ラリーは日本贔屓のジェニファーの勧めで日本を訪れることになる。日本からジェニファーに送る手紙の書き出しがいつも「Jennifer On My Mind」で始まるのだ。ラリーの祖父は日本に対して偏見があって「黄色い猿」「ジャップ」を繰り返す。その偏見にはある理由があるのだが、それは最終章で明らかにされる。でも日本を一人旅するアメリカ人青年を主人公とするなんて、浅田次郎の着想がいいよね。

11月某日
年友企画の石津幸恵さんと御徒町の吉池食堂で待ち合わせ。吉池食堂では「今、テーブル席は満席でカウンターで良ければ」と言われる。カウンターで待つこと5分で石津さんが同僚の酒井佳代さんをともなってあらわれる。石津さんに「今日、銀行に寄る時間がなかったので8,000円しかないのだけれど」というと「いいよ、今日は私がおごってあげる」と言われる。元部下にご馳走になるのはいささか情けないが遠慮なくご馳走になることにする。酒井さんは今度結婚するというので「誰と?」と聞くと「森田さんの知らない人」という答え。そりゃそうだ。石津さんはビール、酒井さんはウーロン茶。私は日本酒(南部美人と桃川)を頂く。吉池食堂はスーパー吉池の経営で、ここの鮮魚部は定評がある。そのためだろうかタコの刺身、貝の刺身の盛り合わせ、つぶ貝のエスカルゴ風など大変美味しかった。締めにおにぎりも食べたのでちょいと食べすぎ。今回は石津さんにすっかりご馳走になってしまった。次回は酒井さんの結婚祝いを兼ねて私がご馳走しよう。

11月某日
「開けられたパンドラの箱‐やまゆり園障害者殺傷事件」(月刊『創』編集部編 創出版 2018年7月)を読む。セルフケア・ネットワークの高本代表理事が重度重複障害者の実態調査を考えていて、私もその手伝いができればということで「障害」関係の本を図書館で探していてたまたま目についたのがこの本。やまゆり園障害者殺傷事件というのは2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」に植松聖(さとし)被告が押し入って障害者19人を殺害、27人を負傷させた事件。ずいぶん前に起きた事件かと思っていたが、まだ3年しか経っていないんだ。月刊『創』は2016年10月号で総特集を組んだのを皮切りに、その後も継続してこの事件を取り上げて来ている。障害を巡る問題は私にとってはやや遠い。親父が実験中の事故で手指の一部を失って障害者になり、私自身も数年前の脳出血の後遺症で右手足にマヒが残り障害者手帳を交付されているにも関わらずだ。思うに私と親父の障害は身体障害でしかも割と軽度であったためであろう。私が障害を意識するのはJRの100キロ以上の乗車券を購入するときぐらいだ。何しろ障害者手帳を示すと乗車券が半額になるのでね。
重度の身体障害、知的障害、精神障害にはまだまだ差別があると思う。やまゆり園の被害者の名前が公表されなかったのも「家族が差別される」という恐れからだと言われている。ただ私は、私も含めて人間は他者(生まれや民族、障害の有無に限らず)を差別をしている限り自由な存在にはなり得ないという考えを持っている。これはなぜ?と言われても困ってしまう。そういう考え、そういう信念だからね。