モリちゃんの酒中日記 12月その1

12月某日
図書館で借りた「海峡に立つ-泥と血の我が半生」(許永中 小学館 2019年9月)を読む。許永中。イトマン事件の主犯といわれた人だよね。7月に「バブル経済事件の深層」(岩波新書)を読んだが、イトマン事件には触れていなかった。バブル経済って金が金を呼び、信用が根拠もなく膨張したことなんだと思う。怖いのはその渦中にいると一般人の私たちでさえそれが異常だと思えないこと。私は当時、年友企画で年金住宅融資を担当していたが、旺盛な住宅需要に対して住宅金融公庫や年金住宅融資などの公的資金はいつも不足していた。公的資金は低利で人気があったのだが、それでも公庫融資で年5.5%であった。今から30年以上前のこととはいえ隔世の感がある。本書について言うと大阪の在日朝鮮人の家に生まれた許永中が大学を中退して度胸と腕力と知恵で、その筋で頭角を現していく過程がそれなりによく描かれていると思う。梁石日の小説「血と骨」を思い出した。

12月某日
「悪足搔きの後始末 厄介弥三郎」(佐藤雅美 講談社文庫 2018年1月)を読む。2015年1月に単行本として出版されたとあるが、「もしかしたら読んだことがあるかなぁ」と思いつつ読み進むが、記憶は甦らない。江戸時代は長子相続が原則で、長男以外の男子は親亡き後は兄の世話になっていて、「厄介」と呼ばれていて幕府の公用語にもなっていた。都築弥三郎は650石取りの幕臣、兄の孝蔵の厄介である。厄介から逃れる道は家付きの娘の婿養子になるか、家を出て浪人となるかしかない。弥三郎は婿養子を蹴って浪人の道を選ぶ。それなりに生きる道も見つけ「厄介」の身ならばとても叶えられなかった嫁ももらうことができた。しかしある事件をきっかけに弥三郎の運命は暗転、お尋ね者の身分となってしまう。ヤクザの客分となった弥三郎は出入りの助っ人に駆り出され…。ここまで読んで「あぁ読んだことがある」と思い出した。佐藤雅美の小説は綿密な時代考証と一種の「軽み」が特徴。本書にもそれはあるのだが、「厄介」故の悲しさが底を流れている気がする。

12月某日
早稲田大学に法学部学術院の菊池馨実先生を訪問。11時の約束だったが念のため10時35分に地下鉄東西線早稲田駅で社保険ティラーレの佐藤聖子社長と待ち合わせ。法学部の校舎に行き、エレベータで教授の部屋がある12階へ。約束の時間までラウンジで過ごす。私が早稲田の学生だったのは50年前でエレベータのある校舎はなかった。キャンパスを行き来する女子大生の多さにもびっくりした。だいたい私は在学中、ほとんど授業に出たことがないので校舎に足を踏み入れるのは稀。ストライキで校舎をバリケード封鎖したときはバリケードの内側、つまり校舎にいたけども。授業のあるときは校舎に行かずストライキで授業のないときは校舎に行くという倒錯した学生生活を送っていたわけだ。菊池先生には来年2月の「第21回地方から考える社会保障フォーラム」への参加を快諾いただいた。50年前「メルシー」というラーメン屋によく行っていたが現在も健在ということなのでそこを覗いてみる。50年前はラーメンが50円であったが今は450円であった。私は470円のもやしそばを、佐藤社長はオムライスを頼む。味は昔と変わらないように思えたが、今の私からすると随分と塩辛く感じられた。佐藤社長にご馳走になる。早稲田から霞が関へ。社会保険研究所の水野君と待ち合わせ3人で厚労省へ行って、鈴木俊彦事務次官にも社会保障フォーラムへの参加を依頼する。

12月某日
神田で打ち合わせの最中、上智大学の客員教授をやっている吉武民樹さんから電話。「今、大学?」と「そう」という答え。17時30分に神田駅の北口で待ち合わせることにする。「大谷さんにも連絡しといて」ということで、大谷さんとも神田駅北口で待ち合わせることに。大谷さんは神山弓子と登場、少し遅れて吉武教授も来る。北口の近くにある「鳥千」に行くと満員だった。年末の金曜日とあって呑み屋さんはどこも書き入れ時のようだった。南口の「葡萄舎」でやっと座ることができた。白井幸久先生も遅れてくるという。大谷さんが迎えに行ってくれた。5人で私が持ち込んだスコッチを1本空けてお開きに。吉武教授とは上野からグリーン車で帰ることにする。吉武教授が缶チューハイを買ってくれる。我孫子について吉武教授と久しぶりに「愛花」に寄る。「愛花」も常連さんで一杯だったが、なんとか席を作ってくれた。隣に居たSM作家のお姉さんと団鬼六について話したような気がする。家に着いたら午前2時を過ぎていた。

12月某日
図書館で借りた「民主主義は終わるのか―瀬戸際に立つ日本」(山口二郎 岩波新書 2019年10月)を読む。著者の認識を一言で表すとすれば「第二次安倍政権のもとで、日本の民主主義は壊れ続けている」(はじめに)というもの。安倍政権を批判する言説は多いがこの本ほど正面を切って堂々と批判したものを私は知らない。安倍内閣は桂太郎内閣を抜いて立憲史上、最長の記録を更新しているが、これは安倍政権が国民から安定的に支持されていることを必ずしも意味しない。国政選挙では安倍政権が勝利を続けているが、それは野党の分裂と低い投票率に助けられたものに過ぎない。国民、市民が国政に関心を持って、自分の意志を投票行動において明らかにする、それが民主主義の基本であろうと思う。この本を図書館に返したら、私も一冊購入して友人、知人に薦めようと思う。