モリちゃんの酒中日記 4月その1

4月某日
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。入院患者から感染者が出た台東区の永寿総合病院は机を借りているHCM社から歩いて数分の距離にある。不要不急の外出は避けるように言われているが、本日は社保険ティラーレに吉高会長と佐藤社長を訪問、次回の「地方から考える社会保障フォーラム」について、講師の人選等を相談した。17時に大学の同級生で西新橋で弁護士事務所を開いている雨宮英明先生を訪問。雨宮先生はビールと日本酒を用意してくれていた。お店に行くとウイルスに感染する恐れがあるからね。二人で一升瓶の5分の4ほど空けたと思う。雨宮先生に千代田線の霞ヶ関駅近くまで送ってもらう。翌日、雨宮先生から首からぶら下げていた貴重品入れを忘れて行ったよとの電話を貰う。宅急便で送って貰うことにする。スミマセンねぇ。

4月某日
図書館で借りた「天皇と軍隊の近代史」(加藤陽子 勁草書房 2019年10月)を読む。日本近代史なかでもその外交と軍事を専門とする著者は現在、東大大学院人文社会系研究科の教授。高校生との日本近代史を巡る対論集を出版するなどアカデミックな世界に止まらない幅の広さを備えた人である。本書には「天皇と軍隊」を巡って著者がかつて発表した論文に、新たに書下ろしの総論「天応と軍隊から考える近代史」を加えたものだ。私には第6章「大政翼賛会の成立から対英米開戦まで」、第7章「日本軍の武装解除についての一考察」がとくに面白かった。第6章では第2次世界大戦の開戦でドイツが快進撃を進めると、軍部が南方のオランダやフランスの植民地の確保に動く様子や、それを阻止しようとする主としてアメリカの動きが描かれる。大東亜共栄圏の理想は欧米帝国主義に侵略されたアジアを白人支配から解放するというものだったはずだが、当時の軍部の考え方はドイツ優勢の尻馬に乗って仏、蘭のアジアの植民地を簒奪しようというものだった。浅ましいね。第7章では終戦時、武装解除と戦争犯罪人の処罰を軸とする無条件降伏を迫る連合国に対して、連合国側の条件を受け入れようとする天皇と、それを阻止しようとする軍部の動きが描かれる。昭和天皇はかなり聡明な人だったんじゃないかな。即位当初から軍部の暴走には批判的だったしね。ただ明治憲法下の立憲君主制だから、内閣の判断に対してなかなか「ノー」と言えなかったんだ。天皇が自分の政治的な意志を通したのが終戦の御前会議だったとは、歴史の皮肉だ。

4月某日
志村けんが新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった。この土日のテレビでは在りし日の志村の映像が各局から流されていた。私は生前の志村に特に注目しているわけではなかったので、初めて見る映像がほとんどであったが、志村の「人気の素」のいくつかが分かったような気がする。志村は20代に新井注の後任としてドリフターズに参加、「8時だよ全員集合」などのバラエティー番組で圧倒的な人気を得る。「バカ殿様」「アイーン」「カラスの勝手でしょ」のギャグが主として子供たちに支持されたのだ。バラエティー番組からも志村の人気は確認できたが、私が感心したのは90年代以降の旅番組や食べ物番組に出演した志村である。志村は田舎のおじいちゃんおばあちゃん、市井の人々と志村は実に自然に交わる。
「テレビで人気者になったけれど、それはそれで俺は俺」という志村の考え方、姿勢は一貫しているように思った。晩年の志村は子供というよりも市井の人々にこそ愛されたのだ。昭和の喜劇役者、伴淳三郎は晩年、内田吐夢監督の映画「飢餓海峡」で三国連太郎と共演、その演技が注目された。志村も役者としてそうした道を歩む可能性も残されていた。

4月某日
家でじっとしているのも何なので散歩に行くことにする。我が家から「水の館」まで歩く。「水の館」は「ベルサイユのばら」「オルフェウスの窓」などの少女漫画で一世を風靡した池田理代子のデザインである。建設当初は「ラブホテルみたい」と悪評だったが、今は我孫子市民にも受け入れられているようだ。「水の館」の1階にある農産物直売所「アビコン」で弁当と銀河ビールを買って手賀沼公園内のベンチで食する。絵筆を揮っている人が4~5人いる。いずれも爺さん婆さんである。手賀沼公園の遊歩道で満開の桜を見ながら家路へ。遊歩道の桜は染井吉野だけでなく八重桜などいくつかの種類があることを初めて知る。

4月某日
厚生労働省の伊原和人政策統括官を社保険ティラーレの佐藤聖子社長と訪問、「地方から考える社会保障フォーラム」へのアドバイスを頂く。佐藤社長と別れ私は虎ノ門から新橋へ歩く。緊急事態宣言が出されたためか人出が疎らである。新橋からJRで神田へ。鎌倉河岸ビルの地下の「跳人」で「鯖焼き定食」を食べる。顔なじみの店員の大谷君に聞くと「夜は閉めている」とのこと。年金生活者の私はお気楽なものだが現役の人たちは大変なのだ。アイスコーヒーをご馳走になった後、社保険ティラーレへ。佐藤社長と吉高会長と「地方から考える社会保障フォーラム」について打ち合わせ。「新型コロナウイルス」をメインテーマとすることで一致。神田から上野、上野から我孫子へ。電車はすいている。我孫子の駅前で「愛花」の常連の荒岡さんに遭遇。「愛花」がこのところずっと休んでいるので「どうなの?」と聞くと「辞めちゃうみたいよ」という答え。まぁ仮に店を開けたとしてもコロナじゃなぁ、客も見込めないしなと納得。荒岡さんと別れて駅前の「七輪」へ。4時開店だが客は私1人だけ。生ビールとウイスキーのソーダ割を2杯頂いて家路へ。

4月某日
図書館で借りた「日本経済のマクロ分析」(鶴光太郎、前田佐恵子、村田啓子 日本経済新聞出版社 2019年11月)を読む。私には少し難しかったが、それなりに面白く読めた。私なりに本書を要約するとバブル崩壊以降の日本経済は、労働力人口の減少に加えて社会のICT化に乗り遅れ、経済成長率は低迷した。物価上昇年率2%という安倍政権の公約もいまだ達成できないでいる。本書はこうした日本経済の現状を「低温経済」と名付け、「一言でいえば、日本経済が「低成長・低温経済の自己実現」のサイクルにはまってしまい、その罠(悪い均衡)から抜け出ることが難しくなっている」と分析する。またアベノミクスに関しては、短期的には経済に一定の好影響を与えることができたが、経済の構造や土台を変えることはできなかったと評価。単純化していうと、これからの日本経済には労働生産性をどのように引き上げていくかが求められていることであろう。労働面では労働の質、つまり人的資本を向上させ、資本面ではICT化など情報化投資を拡大させ、もう一つは役割の大きくなった無形資産(ソフトウエアや企業の教育投資など)への投資を拡大することであると提言している。新型コロナ対策で日本中が右往左往している感がある。しかし在宅勤務や遠隔医療、パソコンによる遠隔授業など新しい試みが広がっていることに注目すべきである。新型コロナは日本社会の構造改革を進める好機として捉えることも可能なはずだ。