モリちゃんの酒中日記 8月その1

8月某日
近所の手賀沼公園を会場にして花火大会。発射音の轟音に家が震えるようだ。轟音を聴きながらビールとワインを呑む。花火大会は今年も盛況だったようで夜遅くまで人のざわめきが感じられた。
図書館で借りた「あれは誰を呼ぶ声」(小嵐九八郎 アーツアンドクラフツ 2018年10月)を読む。作者の小嵐は1944年生まれ。本名は工藤さんと言って私が早稲田の政経学部に入ったとき4年生か5年生で社青同解放派の活動家だった。この小説は1960年代後半から70年代の早稲田の活動家が労働組合の専従を経て女性と所帯を持つに至る姿を描く。といってもそこは高橋和巳の「憂鬱なる党派」とは違ってユーモアを交えながら描く。

8月某日
ブラックマンデー以来の大暴落をしたのが金曜日の株価。休み明けの月曜日は最大の上げ幅で元に戻していた。年末には3万8000円ほどまで行くのではないかというのが大方の見方。私は日本経済は長期低迷から脱していないと見る。労働力人口が減少する中、技術革新も米国、中国、韓国に遅れをとっている。教育から立て直さないと日本経済の復活はないと思う。パリオリンピック。スケートボードなどで日本女子が好調。こういう若い人たちが日本経済もけん引していくのだろう。

8月某日
「いつか陽のあたる場所で」(乃南アサ 新潮文庫 2010年11月)を読む。女子刑務所で一緒だった芭子と綾香。出所後、二人は東京千駄木でひっそりと暮らす。芭子はマッサージ店の受付、綾子はパン職人の見習いとして。その日常が描かれるのだが、もちろん下町らしい人情噺が中心である。しかしそこに庶民のなかに潜む悪意、意地悪もさりげなく描かれる。

8月某日
「愚か者の石」(河崎秋子 小学館 2024年6月)を読む。著者は今年前期の芥川賞を「ともぐい」で受賞している。受賞作は未読だが、明治時代の北海道を舞台にしたヒグマとそれを追う猟師の物語らしい。「愚か者の石」も舞台は明治期の北海道。東京の大学生、瀬戸内巽は国事犯として徒刑13年の判決を受け、北海道の樺戸囚治監に送られる。そこでの過酷な現実と囚人同士の友情、看守との軋轢や交情が描かれる。まぁ一種の監獄小説。映画でいうと「網走番外地」の明治版か。河崎秋子は1979年、北海道別海町生まれ。粗削りな魅力がある。

8月某日
11時30分から「絆」にてマッサージ。そこから理髪店「カットクラブパパ」へ。13時過ぎに我孫子駅前からバスでアビスタ前へ。そこから徒歩3~4分で自宅。遅い昼食をとる。
「光」(三浦しをん 集英社文庫 2013年10月)を読む。伊豆諸島のひとつとみなされる架空の島、美浜島で暮らす中学生の信之と美花は恋仲で森のなかの無人のバンガローでセックスも。美少女の美花に東京から観光に訪れたカメラマンの山中は興味を示す。そんなとき大津波が島を襲い、島のほとんどの家と住民が流される。生き残った信之と美花、幼馴染の輔そして山中。夜、美花は山中に襲われそうになる。信之に絞殺される山中。20年後、南海子と結婚した信之は娘の椿と3人で平和に暮らしている。しかし女優となった美花に20年前の惨劇の暴露を匂わせる脅迫状が届く…。中島しをんの小説はユーモアがあってほのぼのとしたもの、という先入観を持っていた私は驚いた。この小説にはユーモアもほのぼの感も1ミリもない。あるのは日常に潜む悪意と殺意だ。