モリちゃんの酒中日記 11月その5

11月某日
出版健保へ脱退の手続きをしに行く。総務の石津さんが付き添ってくれる。スタジオ・パトリの三浦さんとフリーの編集者の保科さんに退職の挨拶とわたしの「ご苦労さん会」の催促に行く。年友企画にお邪魔してSMSの担当者と年友企画の担当の迫田さんと打ち合わせ。6時から住宅金融支援機構の理事を退任した望月久美子さんのご苦労さん会を「ビアレストランかまくら橋」で。結核予防会の竹下隆夫さん、川村女子学園の吉武民樹さん、プレハブ建築協会の合田純一さん、高齢者住宅財団の落合明美さんが集まる。望月さんとは30年くらい前、住文化研究協議会の研究会で出会った。福岡の修猷館高校の出身で吉武さんとは同窓。お酒は飲めないが気風の良い女性。2次会は竹下、吉武両氏と一緒に葡萄舎へ。いささか呑みすぎ。来年70歳になるのだから少し控えよう。

11月某日
図書館で借りた「西郷の首」(伊東潤 角川書店 2017年9月)を読む。伊東潤は1960年生まれの歴史小説家。わたしは「義烈千秋 天狗党西へ」を読んだことがある。本書は幕末の加賀藩の足軽の家に生まれた2人が主人公。1人は草創期の陸軍に入り西南戦争に従軍、介錯された西郷隆盛の首を発見する。1人は明治維新後の薩長の藩閥政府から疎外された加賀藩の境遇に反発、大久保利通の暗殺を企て実行する。不平士族、それも佐賀の乱や萩の乱、熊本の神風連といったメジャーな不平士族ではなく、石川の不平士族に焦点を当てたのが目新しい。この作者は「天狗党西へ」もそうだが、歴史の谷間に埋もれているもの掘り起こし、巧みにストーリーとする。

11月某日
新潟市立美術館のミュージアムショップになぜか設けられていた300円均一の古本コーナー。そこで買った「大書評芸」(立川談四楼 2005年3月 ポプラ社)を読む。談四楼は「小説も書く落語家」で私も何冊か読んだことがある。本書は談四楼の書評122本を一冊にまとめたもの。第1部「小説の愉しみ」第2部「評論のすご味」第3部「芸人の味わい」の3部構成。私が読んだ本も何冊かあり、同感するものも多い。この人は群馬県の大工のせがれで高卒後、談志に入門、談志のお供で出かけた銀座のバーで何人かの小説家に出会い、それらの小説家の小説を読むようになったのが「本読み」のきっかけ。頭のいい人なんだろうな、文章に無駄がなく的確だもの。

11月某日
北海道の室蘭で弟夫婦と同居していた母が亡くなった。94歳だった。NHKの人気番組「ブラタモリ」で室蘭を特集していたのを見終わったら、弟から電話があったのも何かの因縁か。
通夜・葬儀が室蘭で行われるというので妻と出席する。バニラエアという格安航空券で成田-千歳空港を妻が予約。北海道への往復はいつも羽田からで、障碍者割引を使っても2万円くらいだったから格安である。成田空港まではJRの成田線で我孫子から成田まで、空港線に乗り換えて成田空港まで1駅、1時間ちょいで行くことができる。羽田空港までなら我孫子から2時間かかるので時間も「割安」。ただ成田空港の発着は第3ターミナル、成田空港駅から一番遠いのが難点だが、何しろ「格安」だからね。
千歳空港から高速バスで1時間半ほどで室蘭東町ターミナル。そこからタクシーでワンメーターで葬儀場の「やわらぎ」。無宗教で家族葬なので参列者も20人に満たない。「送る会」では兄と弟が選んでくれた在りし日の母の写真をスライド上映、弟が解説する。先に室蘭入りしていた兄が尿路結石で室蘭の病院の急遽、入院を余儀なくされたので続いて私が挨拶。小学校の低学年のとき「月の満ち欠け」について母に尋ねたら、台所の60ワットの電灯を太陽、銚子を月になぞらえ、銚子を回しながら「月はもともと黒い物体なの。太陽の光を浴びて輝くのだけれどまあるいから光の当たり方によって地球から見ると満月になったり三ケ月に見えたりするの」と巧みに説明されたエピソードを紹介した。ついでに裕福ではない家計から私が無理を言って東京の私学に進学したこと、それにもかかわらず過激な学生運動に参加、私が逮捕起訴されて安くはない保釈金を負担させたにもかかわらず、一言も叱られなかったことにも触れた。「送る会」を終えた後、弟の友人が寄ってきて「私も前科一犯です」という。弟は高校生のとき室蘭で高校生運動に参加、室蘭工業大学の反帝学評グループと共闘していたから、そのころの仲間だろう。68年の末、反帝学評と革マルの内ゲバが東大の駒場であったとき、反帝学評は駒場の教育会館を拠点にしていた。私もそこにいたことがあるが室蘭工業大学の反帝学評も何人か来ていたことを思い出す。