モリちゃんの酒中日記 2月その5

2月某日
大谷源一さんと神田駅の改札口で待ち合わせ。大谷さんは現在の職場、京都大学産官学連携本部東京事務所のある丸ビルから歩いてきたといっていた。まぁJRで一駅だからね。ガード下の「庄屋」へ。お通しに「クラゲ」が出たが、鷹の爪が添えられていて体質的に香辛料を受け付けない大谷さんにはOUT。店員に言うと「シラスおろし」に代えてくれた。HCMの大橋進社長が合流。「庄屋」は安くて料理もまずまずと思うが、客が注文を頼むと店員がいちいち「喜んで!」と対応するのはいかがなものか。私としては「お新香を頼んだくらいで喜ぶんじゃねーよ」と思うのである。

2月某日
浅田次郎のエッセイ集「まいっか。」(集英社文庫 2012年5月)を読む。主として「MAQIA」という雑誌に連載されたものを収録している。女性向けのファッション誌らしい。浅田次郎は小説もうまいがエッセイも巧み。もちろん才能のなせる技と思うが、努力とか才能に触れた「一途」と題されたエッセイがあった。40にして小説家を自称するようになったのは「積年の努力が実ったわけでもなし、ましてや眠れる才能がついに花開いたわけでもなし、たぶん神様がその一途さを不憫に思って、何とかしてやろう、というつもりになったからであろう」と綴っている。高校を卒業した後、大学に進学せず自衛隊に入隊、除隊後ファッション業界に身を投じるが原稿用紙を手放したときはなかったという。その一途さは確かに半端ではないが、浅田の小説にもエッセイにも広く深い学識と教養が伺え、これには感服するしかないのである。

2月某日
土曜日だけど、民介協(「民間事業者の質を高める」全国事業者協議会)の事例発表会を聞きに行く。会場はエッサム神田ホール2号館。会場に着くとちょうど厚労省の濱谷浩樹老健局長の「地域包括ケアシステムの構築と民間事業者への期待」と題する講演の終わるところだった。濱谷局長は事例発表会を最後まで聞き、懇親会にまで付き合っていた。私は今まで面識はないが、現場を重視するということではなかなかいい局長さんではなかろうか。懇親会の会場では「胃ろう・吸引シミュレーター」を展示させてもらった。ネオユニットの土方さんにご足労いただいた。年友企画からは酒井さんが参加、中村秀一さんの「ドキュメント社会保障改革」の販売のためである。セルフケアネットワーク(SCN)の「看取り」の調査でお世話になった鳥取の新生ケア・サービスの生島美樹さんと浜銀総研の田中さんが買ってくれた。懇親会後、神田の「蔵」という「Japanese Bar Style」の店に酒井さんと行く。月曜日に酒井さんと石津さんと呑み会があるので「蔵」を予約する。

2月某日
浅田次郎と吉岡忍の対談「ペンの力」(集英社新書 2018年1月)を読む。浅田次郎は1951年生まれの小説家、吉岡忍は1948年生まれのノンフィクション作家。2人にどういうつながりがあるかというと、浅田が日本ペンクラブの第16代会長(2011年~2017年)、吉岡が第17代会長(2017年6月~)でしかも浅田会長を吉岡専務理事が支えたという関係だ。吉岡は早稲田大学政経学部卒で学生時代、新宿区大久保の神田川のほとりの下宿に住んでいた。対談で明らかになるのだが同時期、早稲田に落ちた浅田も近所に下宿していた。1970年11月25日、三島由紀夫は盾の会の4人とともに自衛隊市ヶ谷駐屯地を訪れ、東部方面総監を監禁、自衛隊員に決起を促すが入れられず割腹自殺をする。浅田はこの事件をきっかけに翌年、自衛隊に入隊する。私もこの日、早稲田界隈の定食屋で昼飯を食べていたら、定食屋のテレビが三島がバルコニーで演説しているところを中継していた。私はその頃付き合っていた女子学生(今の奥さん)と市ヶ谷にバスで向かった。もちろん駐屯地に入ることはできなかったが、評論家の村上一郎を目撃している。村上は何とか駐屯地の中に入ろうと歩哨と交渉していたように記憶している。
それはさておき、本書の眼目は「まえがき」の浅田の次の文章につきる。「私たちが生きている地球の平和を、けっして他人事のように考えてはならない。また、その平和を担保する言論表現の自由を、けっして損なってはならない」。そしてそれは「あとがき」で吉岡が危惧することとも通底する。「特定秘密保護法、集団的自衛権と安保法制、共謀罪、さらには憲法改正の動き。これらが絡み合って狙っていることは、主権在民・平和主義・基本的人権をベースにしてきた戦後日本に強権的な軍事機構をじわじわと呼び込んで、社会構造それ自体を変えてしまうということだろう」。「ペンの力」でこのような動きに抵抗しようという姿勢をふたりは貫いている。リベラルの再結集、再評価が求められているのではないか。

2月某日
この間、年友企画の酒井さんと行った神田の「蔵」へ行く。6時過ぎに酒井さんと石津さんが来る。「蔵」は料理がおいしく値段もリーゾナブル。その割にはお客さんが少ない。穴場と言っていいかもしれない。

2月某日
銀座風月堂ビルに移転したSCN(セルフケアネットワーク)を訪問。厚労省OBの川邉さんと一緒。新規事業の企画書を検討。終わって西新橋のおでん屋「お多幸」へ。ここの経営者は確かSCNの高本代表のご主人の大学時代の友人。三代目の老舗である。高本さんが予約を入れておいてくれたので入れたが、ほぼ満員の盛況で出るときは何組か並んでいた。高本さんにご馳走になる。新橋から上野-東京ラインで我孫子へ。駅前の「愛花」に寄る。