モリちゃんの酒中日記 4月その5

4月某日
セルフケアネットワーク(SCN)の高本代表理事と市川理事がHCM社に来社。SCNの今年度事業について検討。市川理事の実家が「クラ‐チ・ファミリア小竹向原」という介護付有料老人ホームを開設、そのパンフレットを持ってきてくれた。練馬区小竹町は私の学生時代、大学の3年と4年の間を過ごした力行会の国際学寮があったところなのでたいへん懐かしい。HCM社近くのタイ料理の店「バン セーン」でランチ。たまには私がご馳走する。ここはウエイトレスも全員がタイ人のようで、味も良かった。全住協の加島常務が来社して監事監査の打ち合わせ。3時過ぎに退社、5時には我孫子の「しちりん」でホッピー。6時過ぎには「愛花」へ。呑み過ぎである。

4月某日
理学療法士の伊藤隆夫さんは初台リハビリテーション病院や船橋リハビリテーション病院を経営し、訪問リハビリテーションにも力を入れている医療法人輝生会の元理事。私が脳出血で倒れ、急性期病院に入院していたとき、当時確か老健局長だった中村秀一さんから「退院したらどうするの?」と電話をもらった。「自宅の近くのリハビリ病院にしようかと思います」と答えたら「船橋リハビリテーション病院がいいからそこにしなさい。伊藤さんという理学療法士がいるから連絡しておく。そういえば伊藤さんも早稲田だよ、革マルだけど」と言われた。革マルと聞いて一瞬、躊躇したが「まさかリハビリ病院で内ゲバはないだろう」と船橋リハビリ病院に決めた。これが大正解で中村さんや伊藤さんはじめ病院のスタッフには本当に感謝している。
伊藤さんは輝生会を退職、奥さんの実家がある和歌山県の有田市に転居した。先月、中村さんから連絡があって「4月に伊藤さんが上京するから会おう」という電話があった。生憎、その日は中村さんに出張が入ってしまったが、伊藤さんと神田駅東口の「跳人」で呑むことにする。「跳人」は鎌倉橋ビル地下1階の大手町店にはたまに行くが、土曜日は休みなので土曜日もやっている神田店を予約。大手町店の店長の大谷君が土曜日は神田店に出ている。神田駅北口の「河内屋」でアイリッシュウイスキーの「ジェムソン」を仕入れ、「跳人」に向かう。大谷君が「アイリッシュウイスキーいいですね」というので「残ったら呑んでいいよ」という。伊藤さんが来たのでビールで乾杯した後、ジェムソンを呑む。伊藤さんは早稲田の理工学部土木科を出た後、大手ゼネコンに就職したが、「何か違う」と退職、高知の教員養成校に入学し、学資を稼ぐために近森リハビリ病院で働くうちに「向いている」ことから理学療法士の資格を取得、近森病院にいた石川誠先生と輝生会を立ち上げた。伊藤さんから「森田さん、元気そうだね。私が担当した患者さんでは森田さんは長嶋(元巨人軍監督)さんに匹敵するよ」と持ち上げられ、すっかりいい気持になる。

4月某日
図書館で借りた「維新史再考-公議・王政から集権・脱身分化へ」(三谷博 NHKBOOKs 2017年12月)を読む。B6判で400ページを超える私にとっては大著。読み通すのに1週間ぐらいかかったが私は面白く読んだ。18世紀後半から19世紀にかけて日本をはじめとしたアジア諸国、アフリカ、中近東を含めた非西欧社会は、産業革命を経たヨーロッパの軍事大国からの直接的、間接的な侵略の危機にさらされた。日本は1853年のペリー来航を契機として尊王攘夷、攘夷倒幕、公武合体など国論は分裂、主として京都を舞台に勤皇派、佐幕派双方のテロリズムが横行した。著者の三谷博はその辺の政治状況を資料を駆使して再現する。印象的だったのは幕末の越前の松平春嶽、土佐の山内容堂、宇和島の伊達宗城らの賢公会議が公議輿論を主導したり、そこに薩摩の家臣、大久保や西郷、さらには廷臣の岩倉らがからむという複雑な政治過程を経ながら武力倒幕、明治維新に至るというリアルでダイナミックな政治史である。果たして後世の歴史家は現代日本の森友、加計学園問題に端を発する政治混乱をどのように評価するであろうか。「評価に値せず」と歴史の屑籠に捨て去られるのだろうか。

4月某日
図書館で借りた林真理子の「みんなの秘密」(講談社文庫 2001年1月)を読む。単行本は1997年12月だから20年以上も前の作品である。であるが内容は少しも古さを感じさせない。まぁ林真理子はすでに文豪といってもよい地位を分断に築いていると思われるのでそれも当然なのだが。「みんなの秘密」というタイトルからするとおりテーマは夫婦、家族間の秘密、主として不倫である。12の短編が連作になっている。最終作のタイトルは「二人の秘密」である。開業医の妻がバブルからこぼれたデザイナーと不倫する。デザイナーは夫を脅迫し金を得る。デザイナーはさらに金を要求する。夫はかつて命を助けた老ヤクザを思い出し、デザイナーの抹殺を相談する。成功した開業医の一人娘だった妻と夫は政略結婚ともいうべき愛のない出会いであった。だが妻の不倫とそれを理由とする脅迫によって、夫は妻を守ろうと決意する。それは愛の再確認でもあった。こうやってストーリーを要約してしまうとつまらない。それは要約だからなのであって、林真理子は長編も読ませるが、短編も実に巧みと思う。