モリちゃんの酒中日記 11月その3

11月某日
千葉県の「地域型年金委員」というのを日本年金機構から委嘱されている。平成30年度の「年金委員・健康保険委員表彰伝達式」と「年金委員・健康保険委員研修会」が千葉市文化センターであるので出席することにする。会場に行くと8割方の席は埋まっていてしかも若い人が多い。年金委員というのは職域型と地域型の2種類あり、健康保険委員は健康保険協会(かつての政府管掌健康保険)が委嘱するので職域型のみだから、職場の委員さんが参加しているので若い人が多いのだろう。伝達式の後の研修会で千葉年金事務所の鈴木和彦適用調査課長の「年金制度改正等について」の講演を聞いて退席。千葉市文化センターの1階にある千葉市の物産店に立ち寄り「もみ海苔」1袋100円を2袋買う。消費税込みで200円、安い!千葉駅に戻って「築地日本海千葉駅前店」へ。室蘭東高の同級生だった品川英昭君と待ち合わせているのだが、約束の5時より前に入り口で出会う。ビールで乾杯の後、ぬる燗。品川君は北大工学部卒業後、出光に入社。63歳で退職後、今は悠々自適の身。出光時代の話を聞く。現役時代は苫小牧、徳山、姫路、千葉などの製油所勤務が多かったようだ。私は大学卒業後、印刷屋や業界紙を転々としていたので大会社に勤めた経験がなく、大会社しかも石油会社という特殊な経験を聴けて面白かった。昭和42年の室蘭東高卒業生で千葉在住は私と品川君以外にも上野、阿部、坂本、竹本らがいるので今度は船橋当たりで首都圏同窓会千葉支部会をやろうと思う。

11月某日
「ヘルパ!」の取材で(社福)にんじんの会の石川正紀常務理事に会う。介護の業界では老舗の社会福祉法人にどのように現代的な改革を施していくか、悩みつつ実践している姿がうかがえた。午後、社福協の「サービス提供責任者セミナー」の吉澤努さん(よしざわ社労士・社会福祉士事務所代表)の「介護事業者がおさえるべき労務管理のポイント」を聞いてから吉澤さんに取材。「介護職の定着率を高める決め手はない。経営者や管理者には継続的かつ複合的な努力が求められる。ひとことで言えば労働環境をコンプライアンスに則って整えるということだ」と語る。なるほど。

11月某日
フィスメックの小出建社長と竹下家を弔問。奥さんとお嬢さんに挨拶。亡くなってまだひと月。まだまだ悲しみに浸っている様子だった。南古谷から大宮に出て居酒屋へ。ここは奇しくも竹下さんの通夜の帰りに大谷源一さんと落合明美さんと来た店だった。小出社長にすっかりご馳走になる。

11月某日
社福協の高橋さん、岩崎さんと内幸町から本郷三丁目へ。「Join for kaigo」の野沢悠介取締役を取材。介護職の採用、について取材。「誰でもいいから来てください」という採用はダメ、先ずは社内で「どのような人材が必要か」話し合うことが重要とのこと。私などは高度経済成長時代の採用しか知らなかったからこれは新鮮だった。会社の現状を分析したうえで採用計画を進めるべきという考え方だと思うが、ということは採用も経営の重要な一環ということである。今回の取材は実に勉強になる。本郷三丁目から年友企画の迫田さんと丸ノ内線で淡路町へ。社会保険研究所の鈴木社長に挨拶。大谷源一さんから「今、東西線の東陽町」というメールが来たので「大手町で千代田線に乗り換えて北千住で会おう」と返す。私はJRの神田から上野経由で北千住へ。北千住の改札で大谷さんとドッキング。北千住西口の居酒屋へ。

11月某日
吉田修一の「国宝」上下(朝日新聞出版 2018年9月)を読む。朝日新聞に2017年1月から2018年5月まで連載されたものに加筆修正したもの。吉田修一の作品は割と読んでいるが、「国宝」については事前に書評も読まず、その意味では先入観なく読み進むことができた。長崎のヤクザの家に生まれた喜久雄が主人公。ヤクザの抗争の末に父を殺された喜久雄は大阪の歌舞伎役者、花井半二郎の家に引き取られる。花井の家には一人息子で喜久雄と同年の俊介がいて、すでに花井半弥の芸名で初舞台を踏んでいた。喜久雄と俊介は直ぐに打ち解けながらも互いに芸道に打ち込む。大方の予想と期待を裏切って半二郎の名跡は喜久雄が継ぎ、俊介は出奔する。俊介は地方の芝居小屋やお座敷で踊りを披露しながらも修業を続ける。二人は再開し、俊介は歌舞伎に復帰し東京に進出する。その間、喜久雄の映画出演や新派への移籍など数々のエピソードがこの小説に盛り込まれている。
地の文が「ですます調」なのが異色。冒頭、喜久雄の生まれた立花組の新年会のシーンでは「黒紋付の正装で次々に降りてくる親分衆を、『ご苦労さまです』と恭しく迎えますと、その声だけでなく、若衆たちの白い息も揃います」という具合である。吉田修一はこの小説を新聞に連載するにあたり、歌舞伎役者に頼んで黒衣を誂え、舞台裏から歌舞伎を相当取材したらしい。その甲斐かどうか舞台裏、役者の控室の描写がリアル、それだけでなく役者の会話や役者の家族の会話が、東京に進出して標準語に替っていく様がリアルに描かれる。吉田修一は1968年、長崎生まれ。私より10歳年少だがすでに現代を代表する作家となったと言ってよい。