モリちゃんの酒中日記 4月その1

4月某日
新元号が決まる。「令和」。出典は万葉集からで日本の文献に依ったのは初。官房長官が発表し首相が決定に至る経緯を説明する。今回の天皇の生前譲位と改元は、時の政権にとってプラスの効果をもたらすのは間違いのないところだろう。図書館から借りた「愉楽にて」(林真理子 日本経済出版社 2018年11月)を読む。日経の朝刊に2017年9月から2018年9月まで連載されたもので、前半は連載中に新聞で読んでいたが、途中で購読紙を朝日に替えたため後半は未読。現代の大金持ち2人が主人公。一人は大手製薬メーカーの9代目、会社経営に関心がなく父親から副会長のポストを与えられ、本拠を置くシンガポールと東京を往復しながら人妻や客室乗務員と情事を繰り返す。もう一人は老舗精糖会社の三男、子会社の社長という飼い殺しの身が急逝した妻の莫大な遺産により一変する。京都で芸者を囲うことになるがなぜかなじまない。中国の名門出身で自身も大富豪である人妻と恋におちる。林真理子の小説らしくセックスシーンは濃厚に描かれるが、今回私が感心したのは現代の大金持ちの生活がリアルに描かれているところ。宿泊するホテルや食事をするレストランや和食の店、京都での芸者遊びなどがリアルに描かれる。相当な取材費がかかっていると思われるが、林真理子ならではであろう。物語の主人公が現代の大金持ちなら林真理子は現代の「文豪」というべきだろう。改元を審議する有識者会議の一人にノーベル賞の山中博士などと一緒に選ばれているし。

4月某日
神田の「鳥千」で年友企画の石津さんと酒井さんと呑む。「鳥千」は20年ほど前に何度か行ったことがあるが、今年になってから大谷源一さんと2度ほど呑んだ。刺身が美味しいのである。「鳥千」という屋号から焼き鳥屋を想像しがちだが、むしろ日本の正しい居酒屋と言ってよい。シラスと生のりのお通しもおいしかった。今日は団体客は私たち3人だけだった。神田駅で2人と別れ我孫子へ帰る。我孫子駅前の「愛花」へ。元介護士の常連さんとその友人は私の息子と同じくらいの年頃だが、楽しく会話できた。

4月某日
我孫子に着いたのが6時台だったので、駅前の「しちりん」に寄る。我孫子でボトルを置いている店は2軒。「愛花」と「しちりん」だ。「愛花」は5~6人が座れるカウンターとテーブル席が一つ、ママが一人で切り盛りする居酒屋。「しちりん」は主に常磐線沿線に展開するチエーン店、1階は10人ほどが座れるカウンターとテーブル席がいくつかある。2階は行ったことがないが、おそらくテーブル席だろう。「愛花」では常連どうしで話すことが多いが、「しちりん」ではカウンターで独り飲みがほとんど。しかし今回は私が一人で呑んでいると「愛花」の常連の市橋さんが隣に座る。市橋さんは我孫子中学(地元の人はアビ中という)出身で内装業を営んでいるが、もともとは会津若松。実家は漆器の塗師だったらしい。

4月某日
厚生労働省の事務次官を務め、退官後はJPIFや医療経済研究・社会保険福祉協会(社福協)の理事長をやった近藤純五郎さんの「偲ぶ会」が竹橋のKKRで開催されたので参加する。開会前に会場に着くとすでに多くの人たちが会場前のロビーで待っていた。社福協の前常務で私の中学校と高校の同級生だった中沢優一さんがいたので世間話。時間が来て、全員で近藤さんの遺影に献花の後、厚生省入省が近藤さんと同期だった方がスピーチ、「私心がなく自分に厳しいが、友人を大切にする人だった」と語る。私は近藤さんと話したのは2~3回しかないが、温かくて秘かなユーモアを感じさせる人だった。竹橋から根津の青海社へ。校正を手伝う。根津から虎ノ門のフェアネス法律事務所。18時30分過ぎに西新橋の「花半」へ。堤修三さん、大谷源一さん、神山弓子さん、谷野浩太郎さん、落合明美さんと呑み会。堤さんは元厚労省の官僚、大谷さんは元滋慶学園、神山さんは元JALの客室乗務員、谷野さんは社会保険旬報の編集長、落合さんは高齢者住宅財団の部長。一種の異業種交流である。

4月某日
土曜日だけど「ふるさと回帰支援センター」で高橋ハムさん、竹石さん、大谷さんと4月17日の「1969年早大闘争を振り返る会」の打ち合わせ。現在のところ参加申し込みは37人、40人参加が目標なので「あと少しなので頑張ろう」とハムさんに発破をかけられる。司会進行が鈴木基司さん、発起人代表挨拶がハムさん、乾杯の音頭を村瀬春樹さん由美子さん夫妻にお願いすることが決まる。この日は呑み会はなしなので大谷さんと二人で呑みに行くことにする。北千住に行こうと上野から常磐線に乗ったが途中で気が変わって南千住へ。回向院近くの「エビス南千住店」へ行くが開店前だった。回向院を覘くと「小塚原の刑場で処刑された吉田松陰や頼三樹三郎の墓がある」との案内板があった。空いている呑み屋を探して南千住駅前を一回り。開店時間の5時を過ぎたので「エビス南千住店」へ。1時間ほど呑んで大谷さんは日比谷線、私は常磐線の南千住へ。

4月某日
「王朝懶夢譚」(田辺聖子 文春文庫 2019年2月新装版第1版)を読む。初出は「別冊文藝春秋」1992年200号~1994年208号。田辺聖子は1928年生まれだから作者が60代初めから半ばの頃の作品。田辺聖子は樟蔭女子専門学校国文科卒だからといってしまえばそれまでだが、彼女の国文学の素養は半端ではないことがこの作品を読んでもよくわかる。解説は漫画家の木原敏江で、それによるとこの作品の時代設定は「醍醐天皇のころ、平安中期より少し前のころ」という。その頃は平安京といっても町中でも夜は漆黒の闇が支配していた。というか、夜がこんなに明るくなったのは明治維新以降、ガス灯に続いて電気灯が出てきて以来であろう。漆黒の闇はさまざまな妖怪を呼び寄せる。本書の主人公は摂関家に連なる月冴姫。彼女は小天狗の外道丸と知り会いになり、続いて医師の麻刈や女狐の紫々、鮫と人間の間に生まれた鮫児に出会う。そして悪来丸という盗賊、実はやんごとなき王族、康尊親王にさらわれるが常陸の国は真壁出身の武士、晴季に救われ結ばれるというハッピーエンドのストーリー。田辺聖子の王朝ものは源氏物語やその他の古典に題材をとったものなど数多くあるのだが、もう少し暇になるまで読むのはとっておこう。

吉武民樹さんがこの4月から上智大学で教え始めたという。結構広い研究室もあるらしい。今度遊びに行こう。