モリちゃんの酒中日記 11月その3

11月某日
「しかたのない水」(井上荒野 新潮文庫 平成20年3月)を読む。フィットネスクラブを舞台とする連作短編集。受付の女性、水泳のコーチ、コーチの妻でフラメンコの講師等が織りなす物語ということができる。ある日コーチの妻が失踪する。そんななかで虚実が入り交じって物語が展開していく。ストーリーを要約してもあまり意味はないようなそんな連作短編集である。

11月某日
ブレイディみかこの「僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー」がノンフィクション部門の本屋大賞を受賞した。「女たちのテロル」を先月読むまでブレイディみかこの存在自体を知らなかったけれど、もう少し作品を読んでみたいということで図書館で検索すると「花の命はノー・フューチャー」(ちくま文庫 2017年6月)がヒットしたので早速借りることにする。もともと2005年にオリジナル版が出版され、それにブログで連載されたものや書下ろしを加えたものだ。著者は高卒後、イギリスに移住してアイルランド人と結婚した。イギリスはブライトンという地方都市(ロンドンにも通勤可能な海辺の町らしい)に住む。イギリスは階級社会ということは聞いていたが、私たちが知るのはアッパークラスやミドルクラスの人々の暮らしで労働者階級や貧民層の生活はあまり知られていない。著者は公営住宅を払い下げられた住宅に住むが、近所に住むのは労働者階級や貧民層。彼らの暮らしぶりが活き活きとユーモアを交えて描写される。ちょっと異質なのは「BABE伝説」というエッセー。これは Mo Mowlam (モー・モーラム)という北アイルランド担当相を務めた英国の政治家の死を悼んだエッセー。北アイルランドの紛争解決に向けてすべての当事者を同じテーブルに着けたのが彼女だという。途中から病を得て失意のうちに死んだようだが、そんな彼女の人生を振り返るブレイディみかこの筆が優しいんだよね。

11月某日
地方議員を対象にした「地方から考える社会保障フォーラム」も20回、6年目を迎えた。今回は日本列島を直撃した台風の影響もあったのだろう申し込みはやや低調。それでも初日は伊藤明子消費者庁長官の「地域の未来を創る消費生活」、厚労省の江浪武志がん・疾病対策課長の「患者と家族を地域でどう支えていくか-第3期がん対策推進基本計画に沿って」それに中島隆信慶應大学教授の「障害者は社会を映す鏡-障害児教育と障害者就労から考える」の話に地方議員の先生たちは熱心に耳を傾け、講師との意見交換も活発に行われた。地方議員以外にも福祉関係者や労働組合からの参加もあって、すそ野は広がりつつあるようだ。中島先生には講義終了後の意見交換会にも参加していただいた。初参加の先生方から「また参加したい」との声も頂いた。2日目は年友企画の大山社長から「地域住民・地方自治体と国民年金」、さらに社会保険研究所グループからの話があった後で厚労省の吉田昌司地域共生社会推進室長から「地域共生社会の実現に向けた包括的な支援体制の整備について」の話があった。私は午後、医療科学研究所の江利川毅理事長と面会の約束があったので吉田室長の話は失礼して赤坂見附へ。
赤坂見附の医療科学研究所の前で高本真佐子セルフケア・ネットワーク代表と待ち合わせ。
高本代表が構想している重度重複障害者についての調査研究についてアドバイスを頂く。銀座へ行く高本代表とは17時にプレスセンター1階で待ち合わせることにして私は虎ノ門のフェアネス弁護士事務所で渡邉弁護士と打ち合わせ後、プレスセンター1階へ。高本代表と近くの喫茶店で打ち合わせ。私はタイムサービスのウイスキーのソーダ割を1杯頂く。18時にプレスセンター10階の虎ノ門フォーラムの月例社会保障研究会へ。今日の講師は放送大学客員教授の田中耕太郎先生による「ドイツの社会保障の動向と日本への示唆」。田中先生とは以前京都で堤修三さん、阿曽沼真司さんと4人で呑んだことがあるので講演前に挨拶する。田中先生のドイツの社会保障、とくに「医療保険と医療提供体制の特徴と改革」の話は大変面白かった。ドイツの医療改革に比較すると日本の改革は微温的で徹底性に欠けると感じた。難民の流入の増加についての質問に「難民という言葉に否定的な響きがあるが、稼得年齢層が流入しておりドイツの労働力不足への対応に貢献している」と答えていたのが印象的であった。

11月某日
社保険ティラーレの佐藤聖子社長と厚生労働省に伊原和人政策統括官を訪問、次回の「地方から考える社会保障フォーラム」のアドバイスをもらう。HCM社で三井住友きらめき生命の営業ウーマンから説明を受けた後、若干の身辺整理をする。HCM社が年末に引っ越しをするためである。HCM社では立派な机を使わせてもらっているのだが、大橋進社長によると今度のオフィススペースは相当狭くなるため机は持っていけないとのこと。書類をいくつかシュレッダー処分した後、社保険ティラーレで打ち合わせ。

11月某日
「日本の地方議会-都市のジレンマ、消滅危機の町村」(辻陽 中公新書 2019年9月)を読む。日本の中央政府の首長、つまり総理大臣は議会(国会)での選挙によって選ばれるが、都道府県や市区町村の首長は住民の選挙で選ばれる。国政は一元代表制を採っているのに対して、地方は二元代表制とっているのだ。平成の大合併によって町村数が大幅に減って、地方議員も1998年末に6万3000人余りいたのが2018年末には3万2000人余りに減少している。地方議員の存在意義がどこにあるのか問うたのが本書である。国会議員はその報酬も含めて高度な専門職として位置づけされているが、果たして地方議員はどうなのかというのが著者の問題意識の一つだと思う。東京都議会など大都市を持つ都道府県議会や市議会はそうしたことも可能であろうが、過疎地の町村議会ではそもそも議員のなり手がいないという問題を抱えている。本書では「地方議員の専門性強化を図るだけでなく、近隣の自治体同士で議会事務局を共同設置するなどして議会総体としての能力向上を進めなければ、議員活動は魅力あるものに映らないし、活性化もしないだろう」としているが同感である。

11月某日
佐藤雅美の八州廻り桑山十兵衛シリーズ「関所破り定次郎 目籠のお練り」(文春文庫 2017年6月)を読む。八州廻りとは関八州、相模、武蔵、上総、下総、安房、常陸、上野、下野の8か国を管轄する勘定奉行配下の巡察吏である。今回の事件の発端は上州(上野の国、今の群馬県)玉村で道案内(江戸でいう岡っ引)が殺されたこと。同じころ相州(相模の国、今の神奈川県)でも道案内が殺される。上州の下手人は定次郎、相州の下手人は六蔵、二人とも博徒崩れだがこの時代ならば侠客である。この二人を追って桑山十兵衛は関八州を行きつ戻りつするのだが、この旅行脚も小説を面白くさせている要素のひとつだと思う。