モリちゃんの酒中日記 12月その3

12月某日
16時から高田馬場で打ち合わせ。途中、大谷源一さんに電話して18時に日暮里駅で待ち合わせる。日暮里駅の近くで大谷さんとよく行っていた居酒屋がうどん屋に代わっていた。近くのビルの地下の「手打蕎麦とお山」に入る。瓶ビールを頼んで乾杯。グラスが江戸切子風でなかなか風情がある。ワカサギの天ぷらや鴨肉などつまみや日本酒も揃っていて、この店は当たりです。この店はトイレも清潔、店の女の子も感じが良かった。◎です。

12月某日
大谷源一さんと厚労省で待ち合わせ横幕章人審議官に面談、隣の部屋の八神審議官に「地方から考える社会保障フォーラム」のパンフレットを渡す。HCM社に戻って2人で虎ノ門から四ツ谷駅へ。四ツ谷駅で高本真佐子さんと合流、3人で上智大学の吉武民樹先生の部屋を訪問。吉武先生の部屋にはいずれも厚労省OBの霜鳥一彦船員保険会会長と稼農和久看護大学教授が来ていた。吉武先生の案内で大学構内のクルトゥハイム聖堂を見学に行く。この聖堂は元は軍人のための邸宅として明治29~30(1896~97)年に建築されたもので、明治45(1912)年にイエズス会が購入した。現在はチャペルとして使われている。詳しくは知らないがプロテスタントの教会は偶像崇拝が禁じられていることもあってか、正面に十字架が掲げられているくらいで極めて簡素。それに対してカトリックは十字架に磔にされたイエス像をはじめ祭壇のしつらえなど荘厳な雰囲気満載。教義は別にして教会の雰囲気という点からすると私は断然、カトリック。上智大学の教官専用の喫茶室で私はコーヒーを、私以外はビールやワインなどをご馳走になる。吉武さんの研究室に戻った後、大学近くの「隠れ岩松」という呑み屋へ向かう。ここは長崎のうどん屋のアンテナショップで島原の食材が自慢。吉武さんの同僚の栃本一三郎先生も合流して島原の味を楽しんだ。

12月某日
図書館で借りた「トラジャ-JR『革マル』30年の呪縛、労組の終焉」(西岡研介 東洋経済新報社 2019年10月)を読む。600ページを超える大著。旧国鉄時代から動労は革マル派の牙城だったが、国鉄が分割民営化後もJR総連参加の各労組は革マル派の影響下に置かれた。動労以来の卓越した指導者、松崎明が死亡して以降、革マル派の影響力は次第に低下し、昨年JR東労組は3万5000人の組合脱退者を出す事態に至る。要するに「組合員のため」という労働組合の原点から遊離して革マル派の党派的な利害を優先させたことが、大量脱退者を出した原因であろう。読んでいて気分は良くなかったね。

12月某日
家にあるけどまだ読んでいない本がある。死んだときまだ読んでいない本があったら「もったいない」と思うかな。よくわからないけれどこれも「終活」の一環として考えられないこともない。この前、読んだ川上未映子の「夏物語」が面白かったので、家にあった川上未映子の「ヘブン」(講談社 2009年9月)を読むことにする。定価は1400円だったが、裏表紙の見返しに浅川書店という古本屋の300円の値札が貼られていた。本文が始まる前、本扉の裏にセリーヌ「夜の果てへの旅」の「それは第一、これは誰にだってできることだ。目を閉じさえすればよい。すると人生の向こう側だ」という一節が引用されている。本文を読了した後に改めてこの一節を読むと「あぁ」と何となく納得した気持ちになる。主人公は中学2年生の僕。クラスメートの二ノ宮や百瀬の日常的な苛めにさらされている。もう一人クラスで苛めにあっているのが女子のコジマである。二人はメモを交換するようになり、学校の外で会ったりするのだがその間も陰湿な苛めは続く。苛めの描写が何とも凄い。苛めのシーンが続くと読書を中断、いったんほかのことをしてから読書に戻るほどだった。私の考えでは川上未映子は苛め問題を書きたかったわけではなく苛めを通して人間の存在に迫りたかったのだと思う。そしてそれはある程度成功しているのではないか。もう一つ書いておきたいのは苛めを除くとこの小説は僕とコジマの初々しい恋物語であるということだ。ひどい苛めに晒されながら人間は恋をできる。そしておそらくひどい苛めの加害者も恋におちることはある。人間存在の不思議だよね。

12月某日
セルフケア・ネットワークの高本真佐子代表と横浜市の社会福祉法人キャマラードが運営するグループホームを訪問。キャマラードは重度重複障害者のグループホームやデイサービスを運営している社会福祉法人で、今回私が訪問するのは2回目。高本代表は何度も来ているようで職員とも顔なじみだ。重度重複障害というのは知的障害と身体障害のように異なる障害を併せ持つことを言うようで、私はその存在をキャマラードに来るまで知らなかった。今日は24日で夜は上智大学のクリスマスミサに吉武民樹先生に誘われているのだが、高本代表は体調が悪くキャンセル。私一人で上智大学の吉武先生の部屋を訪ねる。2人でミサが行われる講堂に移動、ここは先日、訪日されたフランシスコ教皇がミサを行ったところだそうだ。讃美歌を歌い司祭の説教を聞く。無宗教の私も敬虔な気持ちになる。上智大学からタクシーで市ヶ谷のスペインレストラン「セルバンテス」に移動、大谷源一さんと合流する。クリスマスイブというのにレストランは閑散としていた。店の人によると最近はイブよりもクリスマス当日が混むようで、この店も明日は満席とのことだった。