モリちゃんの酒中日記 1月その5

1月某日
「生命式」(村田紗耶香 河出書房新社 2019年10月)を読む。村田紗耶香は1979年千葉県生まれというから私たち団塊の世代の子供の世代、団塊世代ジュニアということになる。団塊世代ジュニアは卒業時期に不景気が重なり、非正規雇用の割合が高いと言われている。村田沙也加は玉川大学卒業後、コンビニでバイトしながら作家修業をしたという。バイト経験が芥川賞受賞作の「コンビニ人間」に反映している。私は村田沙也加の「コンビニ人間」と「消滅世界」を読んだことがある。確か「消滅世界」だったと思うが、近未来を舞台に性行為抜きに人工授精で人類が繁殖していくという世界を描いていた。「生命式」は表題作を含む14編の短編集。「生命式」は亡くなった人の肉を料理して食べるという習慣が広がっている世界の話。この習慣のことを「生命式」と呼んでいる。村田沙也加は生命について考えたかったのだと思う。「素敵な素材」は故人の遺体を活用して、髪からセーター、歯のイヤリング、皮膚のランプシェイドなどを供給することが常態となっている世界を描く。これらに比べると中学生のときは委員長、高校生のときはアホカ、大学生のサークルでは姫、バイト先ではハルオ、就職先ではミステリアスタカハシと呼ばれている女性の結婚準備を描いた「孵化」はわかりやすいかもしれない。村田沙也加は人間の不可思議さにこそ興味があるのだろう。

1月某日
私が大学に入学したのが1968年だから今から52年前である。私が入学した早稲田の政経学部では第2外国語でクラスが分かれていて、私はロシア語クラスで1年28組だった。前年の1967年の10月8日、当時の佐藤首相の訪米阻止闘争が三派全学連を主体に羽田空港周辺で闘われ、京大生が一人亡くなっていた。そういう物情騒然とした雰囲気も一部にはあったが、私は大学には行ったものの授業にはほとんど出ることもなく、大隈講堂の裏にあった「ロシア語研究会」の部室や3号館の地下にあった政経学部の自治会室にもっぱら出入りしていた。それでもクラスには友達が出来るもので雨宮、内海、岡、吉原、島崎、女子では近藤さんや後に私の奥さんとなる小原さんなどがつるんでいた。私たちのクラスは民青が強かったが、これらの友達はクラス委員選挙のときいつも私に投票してくれた。投票結果は大差で民青の清君に負けていたけれど。2~3年前から今、弁護士をしている雨宮君を中心に何人かが集まるようになった。今日は雨宮君のほか内海君、それに今回初参加の吉原君、そして紅一点の関さんが御徒町の吉池の9階、「吉池食堂」に集まった。関さんはクラスは違ったが、私の奥さんと友達だった関係でこの呑み会に参加するようになった。6時からスタートしたが気が付くとほぼ満席だったのがお客さんもまばらに。再会を期して散会した。

1月某日
高本真佐子さんと大谷源一さんにHCM社に来てもらって打ち合わせ。5時に終わって「食事でも」という話があったが、高本さんは食事会があるそうだ。でも「1時間ほどなら」ということで、御徒町駅近くの「和楽庵はなれ」に行くことにする。「和楽庵」と「和楽庵はなれ」は2軒並んでいる。店員は「どちらも居酒屋兼蕎麦屋です」と言っていたが、つまみの盛り付けも器も凝った感じの店だった。高本さんが1万円を置いて先に帰ったので後日、お釣りを渡さなければ。

1月某日
図書館で借りた「日本経済30年史-バブルからアベノミクスまで」(山家悠紀夫 岩波新書 2019年10月)を読む。山家は「やんべ」と読むが1940年生まれ、1964年神戸大経済学部卒、第一銀行に入行、第一勧業銀行調査部長などを経て神戸大学大学院経済研究科教授を歴任している。この本の狙いは「はじめに」で明らかにされている。30年前の1990年、あるいは90年をはさんでの数年は、世界経済にとっても日本経済にとっても大きな節目であったとする。「ベルリンの壁」崩壊が89年、「統一ドイツ」の発足が90年、ソ連の消滅が91年である。山家は「こうした流れの中で経済面でとくに注目すべきは、旧資本主義国にあって、『新自由主義経済政策』が広まったことである」とする。その大きな背景には社会主義経済圏の崩壊により、欧州の各国政府が自国の社会主義化を恐れることなく、新自由主義経済政策(むき出しの「原始資本主義的政策」)を採用できるようになったという。著者に言わせると社会主義に勝利したのは、原始資本主義(むき出しの資本主義)ではなく、修正された資本主義、福祉国家型の資本主義なのだが。こうした観点から著者は最終章の「日本は世界一の金余り国」の中で、日本の財政健全化と社会保障制度拡充の両立は可能であると主張する。カギは日本の国民負担率(税+社会保険料)の低さである。日本の国民負担率は19年度で42.8%でありOECD加盟国では低いほうから八番目と低い。国民負担率の高いフランスは67.2%で、かりに日本の国民負担率をフランス並みに引き上げれば97兆円の税・社会保険料の収入増が見込まれるという。そして著者はこの負担は負担能力のある大企業や、資産家に求めるべきとし、消費増税に求めるべきではないと主張する。山本太郎の令和新選組とも似た主張ではないか。私は「正しい」と思うけど。

1月某日
昨年暮れに出版された中村秀一さんの「平成の社会保障」企画費が社会保険出版社から振り込まれたので、この前ご馳走になった年友企画の石津さんに「ご馳走します」とメール。御徒町の「吉池食堂」に来てもらう。吉池食堂を使うのは今年3度目、というか1月に入ってから堤さんとが1回目、大学時代の仲間とが2回目、そして今回が3回目だ。まぁ味もそこそこ、値段もリーズナブルだからね。遅れて年友企画の酒井さんも参加。石津さんはビール、私は日本酒。下戸の酒井さんはウーロン茶を頼む。酒井さんに社保険ティラーレの吉高会長と佐藤社長が「酒井さんのことを誉めていたよ」と伝える。酒井さんは「そんなことありません」と謙遜するがそこがまたいいところだ。新婚の酒井さんを先に帰して、私と石津さんはしばらく呑む。今度は吉池以外の東上野のディープな店で呑むことにしよう。