2月某日
「むずかしい天皇制」(大澤真幸 木村草太 晶文社 2021年5月)を読む。大変面白かった。面白かったけれども、社会学者の大澤と憲法学者の木村の対話により構成されている本書をすべて理解できたわけではもちろんない。しかし昨日(2月23日)はたまたま徳仁天皇の誕生日であった。天皇誕生日に天皇制を論じる本書を読んだのも何かの縁、本書に沿いながら天皇制について勝手に考えてみた。日本書紀や古事記では最初の天皇は神武天皇ということになっているが戦後の歴史学では神話上の存在として否定されている。では誰が最初の天皇かというと、山川の教科書では雄略天皇(第21代)で、天皇という言葉は使わずにワカタケルの大王の解説として出てくる。「ワカタケル」(池澤夏樹)という小説を読んだことがあるが競争相手の王子を殺してしまうなど、かなり暴力的だ。もっともそう思うのは現代人の発想で古代人はもっと荒々しく人間や自然と対峙していたのかも知れない。雄略天皇はじめ古代の天皇は実際に武力に基づいて権力を保持していたと考えられる。天皇ではないが推古天皇を補佐した聖徳太子や奈良の大仏の建造を命じた聖武天皇などは、相当強い権力を持っていたんでしょうね。
しかし天皇親政は日本史のなかではむしろ例外で、そのことは著名な法制史学者である石井良助の「天皇 天皇の生成および不親政の伝統」という著作で明らかにされているようだ。平安時代になって藤原氏の摂関政治が天皇親政にとって代わる。摂関政治は平氏に受け継がれ、平氏を打倒した源頼朝が鎌倉幕府を開く。頼朝の血筋は三代で途絶えるが、以降は北条氏が執権として権力を握り、将軍は京都から親王や上級の貴族を招いている。北条氏が滅んだあと、例外的に後醍醐天皇が建武の新政により親政を敷くが長続きしないで南北朝、室町幕府の時代となる。応仁の乱を経て戦国時代になるが、この頃、朝廷は本当にお金に困ったらしい。費用の捻出ができず即位の儀式も出来ないこともあったという。それでも天皇制は生きのびる。むしろ武力も財力もなかったからこそ生きのびたと言っていいかも知れない。大澤先生によると「天皇のことを信長ほど蔑ろにした武士はいない」。天皇から左大臣や征夷大将軍などの地位を提案されるが信長は歯牙にもかけなかったという。信長は明智光秀に殺されるが、光秀は天皇をバカにしている信長に憤慨したわけではない。大澤先生は、日本史に内在している「論理」からすると「天皇をそこまで蔑ろにする人は排除される運命にある」と説く。
短い豊臣政権を経て徳川政権が250年続く。江戸時代を通じて朝廷の存在感はかなり薄い。存在感が一気に増すのが幕末、ペリーが来航しアメリカと条約を交わし、その勅許を幕府が朝廷、孝明天皇に求めたことによる。それ以前に何か問題があって、幕府から朝廷に意見を求めたことはない。天皇及び公家は幕府から僅かな禄を与えられ、学問や和歌、書道などに励んでいたのだろう。朝廷は文化的な存在として生き延びた。それが黒船の来航により180度変化する。自信を失った幕府は朝廷の後ろ盾、勅許を求める。尊王攘夷の嵐が吹き、江戸では桜田門外の変が起こり、京都では開国派へのテロが横行する。尊王攘夷が尊王開国に転換し倒幕の密勅が薩摩と長州に下される。というか岩倉と大久保利通あたりが共謀して、幼い明治天皇に密勅を出させた。天皇の政治利用である。明治維新から20年ほどたって大日本帝国憲法が制定される。「天皇は神聖にして侵すべからず」とされる一方、国会が開設される。現在の憲法下では衆議院の多数の賛成を得て総理大臣が指名されるが、戦前は総理大臣は衆議院の多数に拠らず、元老の指名であった。それでも大正デモクラシーから5.15事件まで衆議院の多数を握る政党が総理大臣を指名するという慣習が成立した。
現憲法下で皇室、天皇の在り方は大きく変わった。戦前、皇室が所有していた膨大な財産は国有財産とされた。皇居は天皇家の財産ではなく国有地である(要確認)。天皇は家賃、地代は払っていないと思うけど。イギリスの王家はウインザー城などの邸宅をいくつか私有しているしタイの王室などはけた外れの金持ちらしい。日本の皇室のメンバーは終身の公務員と言ってもいいと思う。逃げ出したくなるんじゃないかな。眞子さんの気持ちがちょっぴり理解できるような…。
2月某日
「ミーツ・ザ・ワールド」(金原ひとみ 集英社 2022年1月)を読む。銀行OLの由嘉理は焼肉擬人化漫画をこよなく愛する今どきの腐女子。新宿の合コンで酔っ払った由嘉理はキャバ嬢のライに助けられ、ライの歌舞伎町のマンションで生活するようになる。由嘉理が歌舞伎上で出会うホストやオカマバーの店主、作家などを通して由嘉理は新しい世界を知るようになる。私の読後感では由嘉理は「新しい世界を知る」のではなく「新しく生き始める」なのだが、なんだか前向き過ぎてね。金原ひとみの作風は退廃的と思っていたが、本作を読むとどうも違うようだ。新宿歌舞伎町の友情を描いた小説とも読めた。
2月某日
監事をやっている一般社団法人の理事会が東京駅八重洲口の貸会議室であるので出席する。今回は新しい理事の承認だけなので理事会は5分で終わる。その後、理事さんたちは運営委員会に出席するが監事は退席する。八重洲口から日本橋を経て神田へ。神田からお茶の水まで歩く。御茶ノ水でカレーの専門店へ入り「エビカレー」(1000円)を食べる。きらぼし銀行で通帳に記帳、新御茶ノ水から千代田線で我孫子へ。家へ帰ってスマホの万歩計を見ると16,000歩を超えていた。