5月某日
大谷源一さんに「セパ交流戦」のヤクルト・日本ハム戦を見に行かないかと誘われる。東京ドームには何回か観に行ったことがあるが神宮球場は初めてなので行くことにする。地下鉄の神宮前で待ち合わせ、球場まで歩く。都立青山高校(青高)や日本青年館の近く。青高は亡くなった竹下さんの母校、高校生運動が盛んで竹下さんの頃は中核系の反戦高協の拠点だったという。竹下さんは高校生運動のリーダーで法政大学経済学部に入学、学生運動のエリートだったわけね。野球は日本ハムが逆転サヨナラ勝。ヤクルトファンがヤクルトのユニホームを着て応援、7回には小さな雨傘を手にもって東京音頭を歌っていた。見た感じ4割方は若い女性ファン、ほぼ満席だった。日本青年館が立派な高層ビルに建て替えられていた。日本青年館の前が明治公園。日比谷公園や清水谷公園、礫川公園などと並んで昔は左翼に集会の場を提供していた。
5月某日
「辺野古入門」(熊本博之 ちくま新書 2022年4月)を読む。海兵隊の航空基地としては岩国と並んで国内最大吉の普天間基地の移転先として日本政府が決定したのが名護市辺野古。反対運動が続く一方で名護市長選挙では容認派の市長が再選されている。そして知事選挙では翁長、デニー玉木と反対派の知事が2代続く。著者の熊本は明星大学の社会学の教授、フィールドワークとして辺野古に取り組んでいる。反対派、容認派と分け隔てなく泡盛を酌み交わし議論する姿勢には好感が持てる。沖縄が日本に復帰して50年が経過する。私も数回、沖縄には行っているが基地の現実を肌に感じたことはない。沖縄と本土との関係はロシアとウクライナの関係を私には連想させる。もっと沖縄のことを知らねばと思う。
5月某日
「タラント Talant」(角田光代 中央公論新社 2022年2月)を読む。我孫子市民図書館で借りたんだけれど、裏表紙に「この本は多くの人の予約が入っています。なるべく1週間くらいでお返しください」と印刷された赤い紙が貼ってあった。大変人気があるようだ。3日ほどかけて読み通したが、確かに面白かった。しかし帯に記されている「学校に行けなくなった甥、心にふたをした義足の祖父、〝正義感″で過ちを犯したみのり。小さな手にも使命(タラント)が灯る慟哭の長編小説」というコピーには少なからぬ違和感を持った。主人公のみのりの甥は確かに不登校になるのだが、「学校に行けなくなった」というより「自ら不登校を選択した」のだし「心にふたをした」祖父だって、口数は少ないがそれは「心にふたをした」のではなく、自分の心を表現する適切なワードが見つからなかったためじゃないのかなぁ。総じて帯のコピーはみのりはじめ登場人物に否定的な感じがする。そうじゃないと思う。「自分はなにものか?」。みのりも祖父も、甥も真剣に問うているのだ。高松で東京で、そしてみのりの大学時代の友人、玲はベイルートやアフリカ、メキシコで。ロシアのウクライナ侵攻に見られるように時代の空気は明らかに不穏だ。しかし、みのりたちはそれにたじろぎつつも果敢に挑んでいるように私には思えた。
5月某日
「戦後『社会科学』の思想-丸山眞男から新保守主義まで」(森政稔 NHK出版 2020年3月)を読む。タイトル通り、戦後の丸山眞男から最近の新自由主義、新保守主義の思想について概観した内容。全体が①「戦後」からの脱却②大衆社会の到来③ニューレフトの時代④新自由主義的・新保守主義展開の4部構成になっている。第2次大戦の終結から75年以上が経過し1960~70年代の学生運動の時代からだって半世紀を経過している。とすると③ニューレフトの時代のあとに④新自由主義的・新保守主義的展開が来るのは「早すぎ」とも思えるが、著者は「ニューレフトの退潮後の世界は、市場経済とグローバル資本主義の展開する世界となって今に直接つながっている」(はじめに)としている。著者の森は東大教養学部で学部の2年次後半から4年次までの学生を対象に「相関社会科学基礎論Ⅰ」という入門的な授業を行っており、本書はその授業ノートをもとに書き下ろされている。森政稔という人の著作を読むのは初めてだし名前も聞いたことがなかった。巻末の略歴によると1959年生まれ東大法学部、同大学院博士課程中退とある。ネットで調べると筑波大学に務めていた頃から取手の団地暮らしとある。筑波新線で守谷から通勤しているのかしら。明治大学政経学部の重田園江教授とは大学院で机を並べていたらしい。重田氏によると森は無類の猫好きらしい。ちなみに重田氏は早稲田の政経学部の藤原保信ゼミ出身で一流銀行に入行したが肌に合わず1年で退社、東大の大学院へ。専門は無政府主義らしい。今度、この人の本も読んでみたい。