モリちゃんの酒中日記 11月その3

11月某日
「日本仏教の社会倫理-正法を生きる」(島薗進 岩波現代文庫 2022年9月)を読む。私の宗教への関心は、ひとつはオウム真理教や旧統一教会などのいわゆるカルト集団への関心につながる。もうひとつは吉本隆明が親鸞を思想者として高く評価していることだ。私どもの世代にとって吉本の存在は別格で、吉本に心酔する若者たちを評して「吉本教」信者と揶揄されたりしたものだ。それはともかくヨーロッパにおけるキリスト教、中東からアジアに及ぶイスラム教、東南アジアから中国大陸、日本列島に及ぶ仏教-これらは世界の三大宗教と呼ばれる-の存在は、人間の存在や人間社会の存在について、それぞれ根源的な思惟を迫った(らしい)。本書のタイトルは「日本仏教の…」となっているが、著述は当然のように原始仏教から始まる。第1章は「在家と出家」で、乞食という生き方が仏教僧団の在り方を絶対的に決定するという。在家と出家の関係は私には前衛党員(職業革命家)とシンパの関係を連想させる。出家は生産活動に従事しない。職業革命家も革命が仕事なので労働はしない。出家は乞食によって生き、職業革命家はカンパによって生きる。オウム真理教も信者の寄進によって教団は運営され、旧統一教会も基本は同じであろう。
本書のサブタイトルは「正法を生きる」となっているが、島薗は日本仏教における正法の概念を重視する。正法は末法思想の末法に対立するもので正しい思想、考え方で政治や社会が運営される世の中とでもいえばいいであろうか。昭和戦前期において北一輝や青年将校に影響を与えたのが日蓮宗であり、その影響は宮沢賢治や満州事変を企てた石原莞爾にも及んでいる。彼らの「革命思想」を支えたのは末法=正法思想だったのかもしれない。社会倫理という観点から宗教を見直すといろいろなことが見えてくる。宮沢賢治の童話も社会倫理の観点から読み直しても面白そうだ。島薗は戦前の日蓮主義が昭和維新と呼ばれる革命的な政治運動に寄与する一方で、文化的な側面として宮沢賢治の物語作品をあげている。「賢治は仏教本来の教えを、現代人の生き方、感じ方に即して分かりやすく伝えるものとして童話を構想した」のだとしている。終章の「東日本大震災と仏教の力」で島薗は「正法を広めることの中には、困っている人に寄り添い、癒しの場を提供することが含まれている」としている。被災地支援に「正法を具現する人々」を見たのであろう。

11月某日
マッサージのあと我孫子の農産物直売所「アビコン」によってレタスとたまねぎスープを購入。図書館で借りていた「神聖天皇のゆくえ―近代日本社会の基軸」(島薗進 筑摩書房 2019年4月)を読み進む。明治以降の日本の政治体制は天皇制のもとにあったのは確かだろう。そのなかで天皇制の廃止も視野に入れた無政府主義者や共産主義者の運動があり、それにたいする苛烈な弾圧もあったし、自由民権運動や大正デモクラシー、民本主義など、民主主義的な動きもあった。戦前をすべて民主主義が圧殺された暗黒時代だったとみるのもまた一面的なのであろう。中島京子の小説で映画化された「小さいお家」を読んでもそのことはうかがい知れる。日本人は天皇制をどのように受容してきたかという観点から本書を読むと面白い。古代、天皇親政が行われていたのはほぼ間違いないところであろう。もっともその頃は天皇という呼称はまだなく大王(おおきみ)と呼ばれていたらしい。平安時代には天皇は直接的に政治の表舞台に立つことは少なくなり、藤原氏や平氏が権力を握り、こうした体制は明治維新まで続く。江戸時代の庶民にとって天皇は遠い存在であり、身近な権利者は領主である殿様であったろう。本書は幕末の尊王思想の高まりから天皇崇拝が国家の柱となった明治時代、天皇崇敬による全体主義的動員の時代を経て敗戦に至る日本の近代を概観しながら最後に象徴天皇制を評価する。天皇が憲法で定める日本国の象徴であることには日本国民の多くが同意している。前の天皇や現在の天皇の人柄もあって、多くの日本国民は天皇及び天皇家を敬愛している。しかし私の理解では天皇は、天照大神の子孫として神道の祭主でもある。この立場をどう評価すべきか。秋篠宮は大嘗祭への公費支出について「内廷会計」で行うべきだと発言した。著者は「象徴天皇制の理念が、自ずから指し示す方向」と評価する。同感です。

11月某日
3年前に亡くなった福田博道さんを偲ぶ会を御徒町の吉池食堂で。13時30分からなので10分前に予約していた席に着く。定刻には松下、高橋、伊藤、岡田、友野、香川、林そして私の8名が揃う。献杯してそれぞれ福田さんの思い出を語る。福田さんは1950年生まれ、福井県武生市出身、早稲田大学文学部文芸学科卒業。家具関係の業界紙の記者をしていて私とはその頃知り合ったと思う。その後ライターとして独立、年友企画でいろいろな仕事を助けてもらった。娘さんと息子さんがいてそれぞれ立派に成人して、娘さんはピアニストで東欧のチェコかハンガリーに留学していた。息子さんは大手の運送会社に勤めてシンガポール支店勤務という話をしていた。福田さんは自分のことを「売れっ子」ならぬ「売れん子ライター」といっていたが娘さんの留学先や息子さんの赴任先に遊びに行っていた。家族、友人に恵まれたということか。お酒を呑まない香川さんと岡田さんは1次会でさよなら。残りの6人で2次会へ。

11月某日
11時30分から予約していたマッサージの絆へ。いつもの通り15分の電気療法と15分のマッサージ。本日は歩いて7~8分の床屋さん「髪工房」へ。途中で乾物屋さんの「手賀の屋」でレトルトカレー、干しエビなどを購入。髪工房では待ち時間ゼロ。「お客さんがいないなんて珍しいですね」というと「こんなもんですよ」と親方。親方は今年、78歳になったそうだ。「夜にテレビを観ていると寝ちゃうんですよ」。まぁ私も似たようなものです。「髪工房」は65歳以上は料金2000円が1800円に割引されるうえ、スタンプが5個たまるとさらに300円引かれる。ありがたいがお客の高齢者割合が上昇しているので経営は大丈夫かと心配になる。帰りにスーパー「カスミ」によってスコッチのティチャーズを安売り(1078円=税込み)してたので購入する。