4月某日
我孫子駅で上野行きの快速電車を待っていたら品川行が来た。乗車して東京駅で下車、ふるさと回帰支援センターの高橋ハム理事長に電話する。「来いよー」ということなので有楽町の交通会館へ。呑み会の打ち合わせ。大谷源一さんに連絡して御徒町駅北口で待ち合わせ。大谷さんの馴染みの居酒屋へ。
4月某日
「大きな字で書くこと 僕の一〇〇〇と一つの夜」(加藤典洋 岩波現代文庫 2023年3月)を読む。加藤典洋は1947年生まれで私と同年。しかし4月1日生まれなので学年は1年上。確か山形東高を卒業して現役で東大に入学、東大で全共闘運動に参加し、大学は6年かけて卒業した。大学院の入試にも落ち、就職試験にもすべて落ちて国立国会図書館に就職する。全共闘運動への参加と就職試験にすべて落ち、というところに私は勝手に親近感を抱いている。加藤は明治学院大学と早稲田大学で教え定年退職した後、2019年に71歳で死んでいる。加藤の本との出会いは数年前の我孫子の青空市、数冊の古本が出展されていたなかに加藤の「戦後入門」(ちくま新書)があった。それ以来、図書館で加藤の本を見つけては読んでいる。私にとって加藤の文章は魅力的だが難解。しかし死後に編集された本書は短い文章を集めたこともあって、非常にわかりやすい。私には戦前に山形県の特高警察に勤め、戦後は警察署長にもなった実父のことを書いたエッセーが気に入っている。私も含めて学生運動に参加した学生は大なり小なり親との葛藤を抱えていた。その中で最大のものは親が警察官だ。加藤も加藤の父親もそのことから逃げることはなかった。
4月某日
週2回のマッサージの日。「モリタさん、ずいぶん凝ってますね」と言われる。思い当たることはある。テレビの観すぎ。昨日の夕方、「孤独のグルメ」「YOUは何しに日本へ」「鶴瓶の家族に乾杯」「呑み鉄本線日本旅」と4時間半ほどテレビを観続けた。長時間テレビを見た後はストレッチしましょう! マッサージのあと床屋。いつも通っていた近所の床屋が今年に入ってから閉店してしまい、1月から成田街道沿いの床屋にしている。近所の床屋さんは私より年長だったが、今度の床屋さんはかなり若そう。3500円。床屋さんのあと「コビアン」で食事。Aランチ770円(税込み)。
「BAD KIDS」(村山由佳 集英社文庫 2022年10月)を読む。初出は「小説スバル」
1994年2、5~7月号で単行本は94年7月に集英社から刊行されている。村山由佳は64年7月うまれだから、この小説を構想、執筆したのは20代最後の頃ではないだろうか。主人公及び主人公の友人たちは高校3年生。ラグビー部の隆之、プロの写真家を目指す都が主人公とくれば、青春小説となるが、この小説は単純に青春小説という枠には収まり切れない。隆之はラグビー部の親友に恋心を抱き、都の従兄で著名なピアニストの篠原光輝はゲイを公言している。最近、性的マイノリティに対する市民的権利への配慮などが言われ始めているが本書が構想、執筆されたのは30年前である。村山由佳は当時から「進んでいた」と言わざるを得ない。
4月某日
「ミス・サンシャイン」(吉田修一 文藝春秋 2022年1月)を読む。図書館で借りて、家で改めて本書を手に取ると「あっこの本読んだことがある」と気がつく。奥付からすると一年くらい前に読んだことになるが内容はほとんど覚えていない。以前は自分の記憶力の減退にショックを受けたものだが、現在は少し違う。中身を覚えていないということは新しい本を読むと同じこと、新鮮な気持ちで読めると思うことにした。本書の主人公は大学院で映画、演劇史を学ぶ岡田一心。指導教官から紹介されて往年の大女優、和楽京子の荷物を整理するアルバイトをすることになる。アルバイト中に和楽京子(親しい人からは鈴さんと呼ばれている)から彼女の生い立ちや長崎での被爆体験が明かされる。女優となった京子はハリウッドにも招かれアカデミー賞の候補ともなり、女優として絶頂期を迎える。しかしこのとき彼女は、同じく被爆した親友の佳乃子を原爆症で失う。一心も喫茶店のウエイトレスと恋に落ちるがやがて相手は去っていく。一心には小学校5年生のとき9歳の妹を失った過去がある。本書は死、別離と再生の物語である。帯に「鈴さんの哀しみが深く伝わってきました」という大女優、吉永小百合の言葉が紹介されている。深く納得!
4月某日
「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ 筑摩書房 2018年12月)を読む。発行当時かなり話題になった本だが、遅ればせながら図書館で借りた。一読して大変面白いと感じた。主人公はタイトルの通り1982年生まれの韓国女性のキム・ジヨン。父親は公務員で母親は専業主婦だが、この母親の描かれ方にこの小説のテーマが潜んでいる。父親は早期退職し、退職金を元手に商売を始めるのだが、商売の主導権は完全に母親が握る。父親が公務員時代の仲間と呑んで家に帰ってから、仲間の中でオレが一番の成功者だったと自慢するが、母親に「おかゆ屋も私がやろうって言ったんだし、このマンションだって私が買ったんだ。(中略)私と子供たちに感謝してよね。酒臭いから今日はリビングで寝てちょうだい」といなされる。韓国社会で女性が困難さの中で自立を果たして行く物語と一言で言うとそうなるのだが、韓国社会に残る差別的・封建的な遺制とか、それと密接につながると思われる少子化の問題など、日本にとっても他人事とは思えない問題を、深刻にかつユーモアを交えて描いている。