7月某日
「偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス」(服部茂幸 岩波新書 2017年5月)を読む。服部は1964年生まれ、京大経済学部卒、現在同志社大商学部教授。2014年に岩波新書で「アベノミクスの終焉」を上梓しているから、本書はその続編。安倍首相は経済の成長路線を選択しその政策的な表現がアベノミクスで、黒田日銀総裁とともに消費者物価の2%上昇を公約した。この公約は現在に至るも実現していない。服部は経済理論を駆使してなぜ実現できないか、主として副総裁として日銀を黒田とともにけん引している岩田規久男を標的に批判している。表やグラフを用いての批判はち密に行われているのだろうが、経済の素人として読み通すのにいくらか苦労した。しかも理解できたのは全体の60%くらいだろうか。しかし私なりにアベノミクス批判をするとすれば労働生産性が上がっていないということを上げたい。労働力人口が減少する中で、経済成長を遂げようとすれば労働生産性を上げるしかない。AIやICT、ロボットの活用はもちろんのこと、経営や労働の在り方も変えていく必要があるがそこができていないような気がしてならない。それは政治や行政に頼るのではなく経営者やそこで働く一人一人の労働者の問題であると思う。
7月某日
都議選で自民党が大敗、都民ファーストの会、公明党など小池都知事の与党が圧倒的な多数を制した。安倍政治の「終わりの始まり」の予兆か。「アベノミクスと暮らしのゆくえ」(山家悠紀夫 岩波ブックレット 2014年10月)を読む。「偽りの経済政策」に続くアベノミクス批判の書だが、こちらが出版されたのは3年前。だから批判の対象は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の「旧三本の矢」である。私なりに著者の考えを要約すると、黒田日銀の政策はそもそも中央銀行の独立性という観点から疑問があるし、量的な金融緩和についても効果は限定的だ。現に量的緩和にマイナス金利の導入という質的緩和に踏み切ったが、これも効果を上げているとはいいがたい。「機動的な財政政策」は相変わらず公共事業頼みであり、「成長戦略」については企業減税や規制緩和は企業の内部留保を膨らませたもののそれが投資に向かっていない、と批判する。消費増税に反対するという著者の見解には同意できないが、それ以外の主張にはおおむねうなずける。アベノミクス批判についてうちの奥さんと話したら「証券会社の営業マンはとっくに安倍ちゃんに見切りをつけている」そうだ。
7月某日
「誰が日本の労働力を支えるのか」(野村総合研究所・寺田知太、上田恵陶奈、岸浩稔、森井愛子 東洋経済新報社 2017年 4月)を読む。労働力人口の減少という現実を受けて、外国人労働者とAI、ロボットの活用について論じている。2015年度の国勢調査によると日本の総人口は1億2709万人、2010年に比較すると100万人減少している。また労働力人口はピークの1998年に比べると200万人少ない6598万人となっている。四国全体の労働力人口が191万人だから、その分がすっぽりと抜け落ちた勘定になる。労働力人口は2030年までに300万人減少すると予測されているが、これは東海地方全体の労働力人口に匹敵する。このような労働力人口の減少への対応策としてまず考えられるのは、外国人労働者の活用である。本書は外国人労働力(F-wf)について「受け入れるか否か」より「来てくれるか否か」だと指摘する。日本の外国人労働者数は2016年で108万人、これに対して総人口が日本の半分の韓国のそれが96万人、同じく日本の5分の1の台湾が60万人であり、日本の出遅れ感は否めない。スイスのビジネススクールIMDの調査によると、日本の「働く場所」としての魅力は61か国中52位で長時間労働と高くない給与水準が不人気の理由という。世界的な人材争奪戦は激しさを増す一方で、そもそも人材の供給国だった中国でさえ2025年から総人口の減少が始まる。
期待の持てそうなのが劇的な変化を遂げつつある人工知能である。本書ではソフトウエアアルゴリズムの革新として、1980年代は人間が情報とモデルを入力する「エキスパートシステム」、2000年代は機械が情報を分析するモデルを自動構築した「機械学習」、2012年頃から機械が情報を分析するモデルを自動構築する「ディープラーニング」へと移ってきたという。さらに日本の労働者の49%は人工知能やロボットで代替可能という衝撃的なデータも示される。医療についてはディープラーニング(画像認識の応用)により自動診断が可能になると予測する。人間はどうすればいいのか。本書は元リクルートの藤原和博氏の著作から「ジグソーパズル型人材」と「レゴ型人材」という2つのパターンを拾い上げる。「ジグソーパズル型」は「情報処理」や「正解を当てるチカラ」が強みであり、デジタル労働力(D-wf)が得意とする分野である。一方、「レゴ型」は「情報編集力」や「納得解を導き出すチカラ」に優れ、これは「正解のない組み合わせを世に問う」ということでもあり、引き続き人間の仕事であり続けるという。様々な革新プランについて「うちの業界(組織)は特殊だから」ということで退けられるケースがあるがこれは危険と警鐘を鳴らす。これからの人材は「複数の選択肢を持ち、選択の痛みに耐える精神力を持つこと」、「これが選択する力を持つことに他ならない」と本書は結論する。なるほどねー。納得である。