モリちゃんの酒中日記 4月その3

4月某日
「イスラエル-人類史上最もやっかいな問題」(ダニエル・ソカッチョ 鬼澤忍訳 NHK出版 2026年2月)を読む。現在のイスラエルを巡る問題が「人類史上最もやっかいな問題」であることが多少なりとも理解できたような気がする。いわゆる「ユダヤ人問題」は歴史的な時間の長さ、空間的な広がりの大きさで他の問題にはないものがある。古くは旧約聖書の時代から「ユダヤ人問題」はある。キリスト教も最初はユダヤ教の改革派としてスタートしたし、イエス自身がユダヤ人であった。ユダヤ人がイスラエルの地を追い出されて世界各地に散った後も差別されてきた。第一次世界大戦で英仏はユダヤ資本の援助が欲しくて戦後のユダヤ人国家建設を約束した。ところが英仏はアラブ民族の援助を期待して戦後の独立を約束した。英仏の二枚舌外交である。戦間期にイスラエルの地域は国際連盟から英国に委任統治された。戦後1948年、その地にイスラエルが建国された。問題はその地域にはアラブ人が住んでいたことであり、イスラエルの建国にともない多くのアラブ人は排除された。平和裏にではなく武力をともなって。1947~48年の武力紛争はイスラエル人は独立戦争と呼ぶが、アラブ人はナクバ(大惨事)と呼ぶ。ことほどさように両者の認識には違いがある。しかしイスラエルは議会制民主主義の国であり、政権交代によって二国共存(イスラエルとパレスチナ国家)の道も期待できる。イスラエルのネタニヤフ首相は政権を失うと収賄などの罪で訴追される可能性が強いという。イスラエルは1967年以降の入植地から撤退し、パレスチナ国家との二国家共存を目指すべきと思う。

4月某日
御徒町駅南口で3時に待ち合わせて清瀧上野2号店へ向かう。出席者は私以外、岡田、伊藤、高橋さんと女性は香川さんと田口さん。田口さんは青森在住で本日上京し日帰りで青森へ帰るという。17時30分にはお開きにしなければ。確か私と岡田さんは同学年で1948年生まれ、香川さんは1つ下、伊藤さんは1つ上だったかな。高橋さんと田口さんは1952年生まれだったかな。いずれにしても全員が70歳以上、過半数が後期高齢者だ。周りを見ると平日の午後ということもあって、お客は殆どが高齢者、そして店員には外国人が多い。

4月某日
桐野夏生の新刊「眠れぬおまえに遠くの夜を」(文藝春秋 2026年4月)を読む。私はたいていの書籍は我孫子市民図書館で借りるのだが、桐野夏生の小説だけは購入することにしている。今回も発売日の翌日、イトーヨーカドーのブックマルシェで購入。家へ帰って読み進む。今回の登場人物は韓国人。韓国の実業家の家に生まれたテミンはジュニアハイスクールから米国に留学。親戚の家に寄寓しながら学校に通う日々を過ごす。ある日テミンは近所のコリアンタウンで歌いながらダンスを披露している3歳下のナダンと出会う。歌と踊りの才能に恵まれたナダンは美しくもあったが、貧乏だった。ナダンはプロデューサーに見いだされ韓国でアイドルグループの一員としてデビューする。テミンはハイスクールを終え、ニューヨーク大学(NYU)映画学科に進学、卒業後はソウルで映画俳優の道を目指す。ナダンはアイドルグループを離脱、ソロデビューを果たして映画スターとしても成功する。しかしナダンはスキャンダルに巻き込まれ、韓国にもいられなくなる。テミンは映画俳優としてはなかなか花開けなかったが、30歳を過ぎた頃から徐々に売れ始める。才能があり美貌にも恵まれたナダンには金がなかった。実業家の家に生まれNYUの映画学科を卒業したテミンは平凡な容貌で、芸術的な才能にも恵まれているとは言い難かった。しかしテミンは本人の努力と運で、性格俳優として認められて行く。ナダンが失踪してしばらくたったとき、テミンはファンミーティングで日本を訪れる。イベントの後、車のシートに沈み込んでいたテミンは車の横にナダンが立っているのを見つける。ナダンは言った。「テミンさん、あなたのファンです。あなたの出ているものはみんな観ています」…-「これが僕が17歳の時に出会ったナダンについての物語だ」で小説は終わる。

4月某日
「三頭の蝶の道」(山田詠美 河出書房新社 2025年10月)と「いのち」(瀬戸内寂聴 講談社 2017年12月)を読む。「三頭の蝶」とは三人の女性作家で小説中は河合理智子、高柳るり子、森羅万里という名前で登場する。森羅は瀬戸内寂聴、河合理智子は河野多恵子、高柳るり子は大庭みな子である。文中に「宇野千代、瀬戸内晴美、河野多恵子、大庭みな子、高柳るり子、そして、森羅万里…女流の歴史の中で、まだまだ数は多くありませんが、性愛に人間の根源を見出す書き手の歴史は続いて来ました。あの女が圧倒的に不自由な時代に、子を成すためだけではない性の有りようを描こうとして来た女たち」という文章がある。この小説は山田の先輩女性作家に対するリスペクトと言えるかもしれない。一方の「いのち」は河野多恵子、大庭みな子は実名で登場する。二人の才能に惜しみない賛辞を送っているように書かれている。がしかし、河野も大場も女性作家として初めて芥川賞の選考委員になっているが、瀬戸内はなっていない。芥川賞も受賞していない。昔は純文学、大衆文学、その中間の中間小説というジャンルがあり、大衆小説、中間小説は純文学より一段低く見られていた。瀬戸内もそう見られていた。そう見られていたことに瀬戸内自身は不満であったと思われる。三人とも鬼籍に入ってしまったので確かめようもないが。

4月某日
「昭和23年冬の暗号」(猪瀬直樹 中公文庫 2021年6月)を読む。本書は単行本としては「ジミーの誕生日」として09年11月に、文庫本としては「東條英機処刑の日 アメリカが天皇明仁に刻んだ『死の暗号』として2011年12月に、それぞれ文藝春秋から刊行されている。各タイトルからも明らかなように、本書はアジア太平洋戦争の7人のA級戦犯が昭和23年12月23日に処刑されたこと、そしてその日が平成天皇である明仁の誕生日であることから、当時の占領軍やマッカーサー周辺、そして当時の日本の指導層の動向を明らかにしたドキュメントである。猪瀬は執筆当時、石原慎太郎東京都知事の下で副知事を務め、激務に追われながら執筆したとある。猪瀬直樹の当時、そして現在の政治的思想的立ち位置は保守である。政治的思想的な立ち位置は私とは相容れない。もっと言うと私にとっては気に喰わない。しかし猪瀬の作品は私は気に入っている。取材や資料の渉猟について猪瀬の真摯な在り様は私には尊敬に値する。