モリちゃんの酒中日記 8月その3

8月某日
「三鬼」(小林恭二 講談社 2026年6月)を読む。太平洋戦争の開戦前、俳人斎藤三鬼と彼を取り巻く人々の群像劇。斎藤三鬼(1900~1962)は岡山県津山市出身、津山中学、青山学院中等部を経て、同高等部を中退、日本歯科医学専門学校に進学、1925年に同校を卒業、シンガポールにて歯科医院を開業。1938年に帰国、東京・大森で歯科医院を開業、1933年患者の誘いにより俳句を始める。代表句に「水枕ガバリと寒い海がある」「おそるべき君等の乳房夏来る」(ウイキペディアによる)。私は「花冷えの城の石垣手で叩く」を知っている。故郷の津山城の石垣のことを歌ったものと言われる。歯科医にして俳人というのは特殊なのか。東大を出て日銀に入行し俳人として名をなした金子兜太の例もあるしね。三鬼は京大俳句事件に関連して逮捕されてもいる。暗い時代という一面があるのは確かなのだが、この小説ではダンスに興じ、ワインとともに料理を楽しむ三鬼らも描かれている。開戦直前まではそのような暮らしが許されていたのかもしれない。作者の小林恭二は自身も俳句を詠む。本作は小林にとって17年ぶりの新作小説という。

8月某日
「スターリニズム-帝国再興のプロジェクト」(松井康浩 岩波新書 2026年7月)を読む。本書において「スターリニズムは、ロシア的な土壌に根差したマルクス主義として第1次5カ年計画、本書でいうところの「社会主義的近代化」を推進し、資本主義の次なる発展段階に位置した社会主義社会実現に向かう支配原理として立ち現れた」(序章 スターリニズムとは何か)とされる。スターリニズムそしてソ連型社会主義は、生産手段の国家的所有や協同組合型所有に基礎を置いて企てられた社会主義的近代化の試みであった。革命前のロシアは、圧倒的多数が農業に従事する農業国であった。何次かにわたる5カ年計画、独ソ戦を経てかつての農業国は米国と並ぶ工業大国となった(世界有数の農業大国でもある)。しかし「社会主義的近代化」を支えたのはスターリンによる恐怖政治でもあった。権威主義的国家に分類されるロシア、中国、北朝鮮は私に言わせるとスターリン主義国家と呼称した方がわかりやすい。

8月某日
「近代天皇論-「神聖」か「象徴」か」(片山杜秀 島薗進 集英社新書 2017年1月)を読む。1968年の明治維新によって政権は江戸幕府から明治新政府に移行した。それは単なる政権交代に止まらず、政治権力の転覆と新しい政治勢力による権力の奪取に他ならなかった。新しい政治勢力の旗印が「王政復古」と「文明開化」であった。「王政復古」は過去や伝統を志向するものであり、「文明開化」は、日進月歩の西洋近代の科学や制度をどんどん取り込もうという未来志向。一見すると矛盾しているが、「しかし、徳川時代の身分制度を解体して、「天皇と臣民」という関係をつくる点では一致している」(片山)。この関係は1945年の日本の敗戦まで続き、天皇の人間宣言を経て現在の「天皇と国民」という関係になっていく。「天皇と国民」という関係に直接言及したのが、平成天皇(現上皇)の「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」(平成28年8月8日)である。平成28年とは2016年、今から10年前である。この「おことば」は本書の巻末にも収録されている。おそらく上皇は「天皇と国民」の関係について憲法に基づいて、最も深く考えている人ではないか。

8月某日
「神聖天皇のゆくえ―現代日本社会の基軸」(島薗進 筑摩書房 2019年4月)を読む。江戸時代、庶民にとって天皇は遠い存在だった。自分たち住む土地の領主、大名、武士こそが支配者であった。幕末、日本はアメリカ、ロシアなど列強の脅威にさらされた。危機の時代に主として武士階級が支持したのが尊皇思想であった。尊王攘夷は尊王開国に変質しながら明治維新の支配的な思想となった。明治国家は建前としては立憲国家であり、大正デモクラシーの一時期は立憲主義、民本主義が主張され、天皇機関説は学会でも普遍的に認められていた。昭和に入って日本が侵略的に中国大陸や東南アジアへ進出しようとしたとき、持ち出されたのが神聖天皇であった。敗戦後、昭和天皇は人間宣言を行い、天皇を現人神とし日本民族を他民族より優越なる民族として「世界を支配すべき運命を有す」という傲慢な意識があったことを反省している。昭和天皇の考えは平成天皇夫妻や現天皇夫妻にも受け継がれている。天皇夫妻や秋篠宮の考えは恐らく、現在の高市政権とそれを支える日本会議などとの考えとは異なっている。自民党右派、そして高市政権は改憲に傾いている。そのブレーキ役の一つとなっているのが天皇だとすれば、歴史の皮肉と言いたくなる。

8月某日
月に一度の高血圧症の診療日。長男の車で我孫子駅前の中山クリニックへ。いつもは閑散としている待合室が今日は患者多し。ほとんどが私と同じ高齢者、それも後期高齢者と思われる。私の場合は高血圧の記録帳を見せて、血圧を測って終わり。3分から5分。これで診察料の自己負担分は960円。駅前からバスで若松へ。薬局のウエルシアへ。処方箋を出して待つこと20分、いつもの血圧関連の4種類の薬を貰う。薬代の自己負担分は760円。生活費は年金、治療費は健康保険、助かってます。

8月某日
ネパールと中国の国境付近で大規模な土石流が発生、多数の死傷者、行方不明者を出した。被害者は今後も増える見通しだ。土石流の発生は標高5200メートルの氷河が崩壊、標高4000メートル付近まで急速に落下したしたためという。中国当局は「温暖化の長期的な影響により氷河が不安定化したことが原因」と指摘とも報じられている。氷河は数万年前に形成され、その後、何万年にもわたって安定していた。それが産業革命以降の地球温暖化の影響で不安定化してきたということであろう。産業革命以降の人類による化石燃料の消費が原因と言っていいだろう。日本でも北陸地方で大雨による洪水が報じられた。これも異常気象、地球温暖化の影響ではなかろうか。