モリちゃんの酒中日記 7月その3

7月某日 
HCM社の大橋社長とネオユニットの土方さんと西葛西の駅で待ち合わせ。土方さんの車で東京福祉専門学校へ。副校長の白井孝子先生からシミュレータについてアドバイスを頂く。校舎の一部が地域住民のために開放されているので見学させてもらう。「なごみの家 葛飾南部」というのが正式名称で、なんでも江戸川区の社会福祉協議会から委託されているらしい。小学生が2人、施設の備品のタブレットでゲームして遊んでいたし、若い母親が乳児を連れて遊びに来ていた。「なごみの家」を出て、西葛西駅近くの「庄屋」で一杯。土方さんにご馳走になる。帰りは西葛西から西船橋まで東西線で。西船橋から新松戸まで武蔵野線、新松戸から我孫子まで千代田線で。

7月某日
電車の中で読む本を家に忘れてきたので日暮里駅の「リブロ」という本屋で「昭和史講義【軍人編】」(筒井清忠編 2018年7月)を買う。太平洋戦争開戦時の首相を務め敗戦後A級戦犯として処刑された東条英機、敗戦時の陸軍大臣で「一死大罪を謝す」という遺書を残して自決した阿南惟幾、世界最終戦を唱え日蓮宗(国柱会)の信者でもあった石原莞爾、インパール作戦の指揮を執った牟田口廉也、ラバウルの名将と呼ばれ現地人を登用した植民地経営を進めながら、戦犯として現地刑務所に服役、釈放後は自宅の隅に小屋を建てて生活した今村均、海軍では連合艦隊司令長官の山本五十六、昭和期海軍の語り部と言われた高木惣吉、山本五十六と兵学校同期で親友だった堀悌吉ら14人の行動やリーダーシップの在り方に焦点をあてた。米英との開戦に当たっては陸海軍の多くの指導者は勝利への確信は持ちえなかった。国力からして米国に勝つのは無理、しかし3年後には日本の石油は底を突き、そこを米国に攻撃されれば日本はひとたまりもない。ならば先制攻撃で米国に一撃を加え、日本有利のもとに米国と和睦するというストーリーだったようだ。客観的に情勢を観察して判断するという基本ができていなかった。今の政治家にも言えるのではないか。

7月某日
「世界消滅」(村田紗耶香 河出文庫 2018年7月)を読む。村田沙耶香は「コンビニ人間」で芥川賞を受賞している。舞台は近未来の日本。人間の生殖は性行為ではなく人工授精によって行われる。夫婦間の性行為は「近親相姦」としてタブー視されている。主人公の雨音は夫ともに実験都市の千葉に移住する。そこでは人工授精による出産が行われ、生まれた赤ん坊は「子供ちゃん」として集団で育てられる。性行為をともなう恋愛は小説の大きなテーマであった。「世界消滅」はそれに対して挑戦しているのであろうか? 私は逆に恋愛における性行為の位置を再確認しているように思えるのだが。

7月某日
図書館で借りた「ルポ川崎」(磯部涼 サイゾー 2017年12月)を読む。川崎には今までほとんど縁がなかったが、最近、川崎駅近くの小規模多機能施設を訪問する機会が多い。川崎にはもともと在日の朝鮮人の人が多く住む地域があり、彼らに続いてフィリピン人やペルー人、その2世や日本人とのハーフが住み着くようになった。彼らに対して「ヘイト・デモ」が催され、同時にこうしたデモに反対する「カウンター」の運動も盛んである。そして本書で重要な位置を占めるのが「ラッパー」や「ダンサー」。彼らの多くは中学で不良となり、ラップやダンスに自分の生きる道を見出す。今日本の社会に欠けているのは多様性を認め合うということではないか。

7月某日
半藤一利の対談集「昭和史をどう生きたか」(文春文庫 2018年7月)を読む。「あとがき」によると2014年に東京書籍により刊行された単行本を文庫化したものとある。東京書籍の単行本はおよそ2000年から2010年まで「文藝春秋」や「オール読物」などで企画された昭和史に絡む対談を収録している。半藤一利の歴史読み物は読みやすさと正確さを兼ね備えた貴重な存在と兼ねてから私は思っていた。本書のなかでは「ふたつの戦場-ミッドウェーと満洲」(澤地久枝)、「指揮官たちは戦後をどう生きたか」(保阪正康)、「天皇と決断」(加藤陽子)、「栗林忠道と硫黄島」(梯久美子)が特に面白かったが、「失敗の本質」で名高い経営学者の野中郁次郎との対談が異色。対談の最後の方で野中が「本当に知的なリーダーを生み出すには時代が知的でなければいけない、というご指摘が胸にこたえました。まさしく現代に似てるな、と感じました」と語っていた。同感である。