社長の酒中日記 10月その2

10月某日
図書館で借りた「人情時代小説傑作選 親不孝長屋」(新潮文庫 縄田一男選)を読む。著者は池波正太郎、平岩弓枝、松本清張、山本周五郎、宮部みゆきの5人のアンソロジー。平岩と宮部を除くと物故者。池波は90年に67歳で、松本は92年に81歳で、山本は67年に64歳で亡くなっている。松本は平均寿命といえそうだが池波と山本はいかにも若い。現代では早死にの部類だろう。ストーリーはいずれも単純な人情もの。とは言ってもいずれも一流の書き手だけにそれぞれ「読ませる」。なぜ人は、そして自分は人情ものの時代小説に惹かれるのだろうか?ひとつの答えは江戸の下町という時間、空間がもたらすものだと思う。現代とは時空を隔てること2~300年というのが逆にストーリーにリアリティを生むということではなかろうか。

10月某日
図書館に行ったら文春新書の「ポスト消費社会のゆくえ」(辻井喬、上野千鶴子 2008年5月)が目についたので借りる。辻井は堤清二のペンネームで西武セゾングループの総帥、池袋の地元デパートに過ぎなかった西武百貨店を、流通、ホテル・リゾート、金融などの一大グループに育て上げたがバブル崩壊とともにグループの経営が危機に瀕し、堤は百億円の個人資産を提供、グループは解体した。一方、辻井喬のペンネームで多くの詩や小説を発表している。父は自民党の代議士で衆議院議長も務めた堤康次郎。清二は戦後、東大に入学し共産党に入党しのちに除名されたことでも知られる。上野のインタビューに辻井が答えるという形式になっているが、楽しそうに語り合っている雰囲気が伝わってきそうな対談集である。上野が以前、西武百貨店の社史を分担して執筆したことがあり、西武グループの内情に詳しいということもあるが、上野も京大で学生運動を体験したということから同じような匂いがするのかもしれない。堤清二、辻井喬という複雑な人格の一端に触れることが出来たような気がする。

10月某日
茨城県の笠間市役所を取材。クラウドを使って意欲的に地域包括ケアシステムを進めている。介護保険制度が始まったのが確か今から15年くらい前。パソコンも今ほど普及していなかったしクラウドというシステムもなかった。今後さらに少子高齢化が進み、労働力人口は減る。ICTやロボットの活用、外国人労働者の活用も視野に入れて行かざるを得ないし、ICTの活用はすでに始まっている。逆に言うとICTの活用なくして介護の労働力不足を補うことはできないという現実がある。それは民間も自治体も一緒だと思う。

10月某日
笠間市の取材を終わって帰社。会社近くの「ビアレストランかまくら橋」で唐牛健太郎氏の未亡人真喜子さん、堤修三さん、昔、厚生省で堤さんの部下だった岩野さんと会食。岩野さんは京都生まれの大阪育ちということで京都育ちの真喜子さんと話が合ったようだ。少し飲みすぎたが、私は我孫子駅前の「愛花」へ。

10月某日
「シルバー民主主義-高齢者優遇をどう克服するか」(八代尚宏 中公新書 2016年5月)を読む。国民皆保険にしろ国民皆年金にしろわが国の社会保障の大枠は昭和30年代に決められた。その頃は人口に占める高齢者の割合はまだ低かったし経済は高度成長期を迎えたときでもある。それから半世紀を経た現在、事態は大きく変化している。高齢者比率は増大し、高齢者を支える現役世代は減少に転じている。経済は低迷し長くデフレ状態が続いている。しかも高齢者世代の投票率は高く、現役世代の投票率は低い。だから政治家はどうしても高齢者の既得権を守ろうとする。必要な改革が一向に前進しない。これがすなわち「シルバー民主主義」である。著者の言うことは実に全うだと思う。その中でも子育てを家族の負担だけでなく、広く社会全体でシェアするという「育児保険」の考え方は目から鱗が落ちる考え方だ。世代間の所得の再分配だけでなく高齢者世代間の所得の再分配を強化せよというのも卓見と思われる。高齢者には貧困層もいれば富裕層もいる。高齢の富裕層に対する年金課税や資産課税を強化して貧困層に給付するというものだ。今は年金受給者というだけで富裕層も年金課税を免れている。これもシルバー民主主義である。高齢者の多くが救済されるべき時代は終わり、高齢者も応分の負担をしなければならなくなったわけである。私たち団塊の世代から始めないとね。

10月某日
「健康・生きがいづくり財団」の大谷常務と神田の葡萄舎で待ち合わせ。約束の7時に行ったら大谷さんは、和歌山で「地域に根ざした健康生きがいづくり支援」をやっているNPO法人和歌山保健科学センターの市野弘理事長を伴って来ていた。市野さんは花王の元社員でヨーロッパを中心に海外でビジネスを展開してきた経験を持つ。NPO法人だけでなく和歌山いのちの電話協会や和歌山高齢者生活協同組合にもかかわっているというマルチな人だ。和歌山には生活福祉科学研究機構の土井さんもいるし、医療法人の輝生会の理事を退任した伊藤隆夫さんも、奥さんの実家がある和歌山に移住すると言っていた。今度、紹介しようと思う