社長の酒中日記 10月その4

10月某日
HCMの大橋社長と三浦さんとで鎌倉河岸ビル地下1階の「跳人」へ。大橋さんと三浦さんは青森東高校の卓球部の先輩、後輩。「跳人」も青森出身者のお店。ビールで乾杯後、私と三浦さんはウィスキーのソーダ割、大橋さんは水割りにする。シミュレーターや卓球の話をするうちにすっかり出来上がってしまった。

10月某日
社会保険研究所で「介護保険情報」の校正をお願いしている渡辺さん(通称ナベさん)と久しぶりに葡萄舎で吞む。ナベさんとは40年以上前に日本木工新聞社という業界紙で一緒だった。ナベさんは早稲田大学英文科の出身、フォークナーを専攻したそうだが、そういう話をしたことはない。木工新聞在社中は一緒にやった麻雀と組合運動が印象に残っている。ナベさんは木工新聞を2年くらいで辞めて医書の専門出版社へ移っていった。今はどうか知らないが当時、医書の出版社は給与水準が高く羨ましく思ったものだ。それから1年くらいで私も木工新聞を辞めて、日本プレハブ新聞社に移りしばらく交流は途絶えていた。交流が復活したのは私が年友企画に転職してしばらくしてから。ナベさんが医書の出版社を辞め、フリーの校正者をやっていると聞いてから。「介護保険情報」が創刊されたとき、その校正をお願いすることになった。途中、空白があったにせよ40年以上も交流が続くということはやはり気が合うのだろう。

10月某日
桐野夏生の「グロテスク」(文春文庫 2006年 単行本2003年3月)を読む。「週刊文春」に2001年1月から2002年9月まで連載されている。この小説は1997年3月に東京渋谷の円山町で起きた「東電OL殺人事件」を下敷きに書かれている。実際の事件では、慶應大学経済大学を卒業した東京電力に勤める39歳の女性が被害者で、実は彼女は円山町界隈で常習的に売春行為を行っていたことが報道合戦の中で明らかにされ、大きな話題となった。ノンフィクション作家の佐野眞一が「東電OL殺人事件」(新潮社)を2000年に出版している。私は「東電OL殺人事件」を発刊当時に読んだが、エリート女性が売春をするという「心の闇」が明らかになっていないのではと感じたものだった。桐野の「グロテスク」はフィクションではあるが「現代の闇」を見事に切り取っていると思う。
小説ではG建設に勤めるQ大卒のエリート女性、和恵と彼女のQ女子高校の同級生で物語の語り手でもある「わたし」、「わたし」の妹で類いまれなる美貌の持ち主ユリコ、成績は学年一番で後に東大医学部へ進学するミツルという4人の女性、それに犯人とされる中国人チャンの独白と日記によって構成される。それぞれが魅力的である意味「グロテスク」な個性の持ち主なのだが、私は中国四川省の農村部に生まれ、妹を日本への密航途中で水死させるチャンに惹かれた。「中国人は生まれた場所によって運命が決まる」。小説中に出てくる文章だが、一種の東洋的な運命論だと思う。チャンに殺されたとされる和恵とユリコ、医者になった後にオウム真理教を思わせる宗教に入信したミツル、Q大卒後、区役所のアルバイトを続ける「わたし」にもそのことは言えるのではないか。

10月某日
民介協のフィリピン視察の報告書を民介協に提出。以下は「日本とフィリピンの比較」部分の要約である。
フィリピンは国土面積、人口とも日本の8割程度だが人口減少の日本に比較すると、フィリピンの人口はまだまだ増加する余地がある。フィリピンの合計特殊出生率は2014年に初めて2.98と3を切り、人口の伸び率は鈍化しているものの、増加数はおびただしい。ちなみに30年前の1986年のフィリピンの人口は5549万人だったが、2016年には倍近い1億420万人となった。経済成長率が5.8%(日本は0.15%)と高いのに、失業率も6.3%と高いのは、労働力人口が国の経済力を越えて過剰なためである。フィリピン中央銀行の政策金利は翌日物借入金利の3%を中心に2.5~3.5%。物価が堅調なため2011年の4%台、2007年の7%台よりは下がっているが、それでもマイナス金利の日本より格段に高い。ちなみに日本の公定歩合は0.3%。日本は労働力不足で資金が過剰、フィリピンは労働力が過剰で資金不足なのは明白だ。「フィリピンの労働力を日本へ。日本の資金をフィリピンへ」というのが普通の流れと言えないだろうか。