モリちゃんの酒中日記 4月その1

4月某日
「昭和史の明暗」(半藤一利 PHP新書 2023年11月)を読む。歴史探偵、半藤が亡くなったのが確か3年前の1月。非戦の観点から日本の近代史を見つめてきた半藤さん、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻を知らずに亡くなったのは幸せだったかも知れない。本書は1980年代に雑誌「プレジデント」に掲載されたものをまとめたもの。「昭和天皇と2.26事件」「昭和陸軍と阿南惟幾」「日本海軍と堀悌吉」「連合艦隊と参謀・神重徳」「太平洋戦争と「雪風」」の5章で構成されている。昭和天皇や終戦時の陸軍大臣で8月15日の朝、割腹自殺した阿南のことはよく知られているが、兵学校をトップで卒業しながらも対米英開戦に反対し予備役に退かされた堀悌吉、海軍部内の強硬派で東条暗殺計画にもかかわった神重徳については私は殆ど知るところがなかったので面白かった。とくに神の没年が1945年とあるので、阿南のように自殺したと思ったが、終戦後の9月15日、残務整理のため北海道に向かう途中、飛行機事故で亡くなったそうだ。「雪風」は終戦時まで撃沈されなかった数少ない駆逐艦、戦後、戦利品として中華民国(台湾)に引き渡された。舵輪と錨のみが返還され、江田島に記念として残されているという。

4月某日
「逃亡小説集」(吉田修一 角川書店 2019年11月)を読む。「逃げる」をテーマにした短編小説が、「逃げろ九州男子」「逃げろ純愛」「逃げろお嬢さん」「逃げろミスター・ポストマン」の4編収められている。「九州男子」は小倉で配送トラックの運転手をしていた秀明が主人公。リストラされた秀明が市役所で生活保護の係から帰り、車に乗ろうとしたときに警官から職務質問される。後部座席に母親を乗せたまま、英明は逃走を図る。カーチェイスの末に秀明は逮捕されるが…。「純愛」は奈々さんと未成年の潤也君の恋愛物語が2人の交換日記で明らかにされる。2人は沖縄へ逃避行を図るが…。物語の最後で、この交換日記が「千葉県柏市の中学校の女性教諭が、前任校で教えた高校2年の男子生徒(17)にみだらな行為をしたとして逮捕された事件」で押収された証拠品であることが明らかにされる。「お嬢さん」は長野で人気温泉宿を経営する康太と元アイドルの鮎川舞子の物語。元アイドルは結婚しても芸能活動を継続しているが、夫が麻薬使用で逮捕されたことから車を運転しながら逃走を図る。長野の山中で車が故障したところに行き合わせたのが康太。康太はアイドル時代の舞子の大ファンだった…。「ミスター・ポストマン」は網走のクリオネ通りの「SexyClubアネモス」でバイトする夏は漁師の康太が舞台回し役。康太は離婚歴があり、娘を育てている。娘を可愛がっているのが離婚した妻の弟の春也。春也は日本郵政の下請けで郵便配送を行っているが、ある日配送車ごと失踪してしまう。私は4編とも楽しく読ませてもらった。「逃げる」というテーマだけが一緒で、4作とも見事に舞台もシュチュエ―ションもばらばら。吉田修一の才能を感じさせる。

4月某日
18時から前の会社の石津さん、浜尾さんと内神田のCHINEZE DINING結彩で食事の予定。まず我孫子から上野へ行き上野公園で花見。平日の午後だというのに結構な人出だった。上野から御徒町まで歩き、御徒町から上野へ戻る。上野駅近くの中華料理屋でランチ。席に座ったとき「今日は夕食、中華だった」と思ったが時すでに遅し、「上海焼きそば」をオーダー。中国人の経営する店らしく、客とお店の人が中国語と思われる言葉で話していた。味はそこそこではないでしょうか。中華料理屋の近くに美味しそうなパン屋さんがあったので石津さん、浜尾さんにパンを購入(パン屋の名前はB2D)。17時を過ぎたので上野から神田へ移動。18時少し前に結彩へ。本日は満席とのことだったが予約をしていたので予約の席へ。ほどなくして石津さん、浜尾さんが来る。私の奥さんが用意してくれたコーヒーとパンを渡す。浜尾さんはずっと以前に前の会社を退社、フリーのライターをやっている。石津さんは今月で退社ということで浜尾さんが花束を渡す。美味しい中華料理とおしゃべりを楽しんでお開き。

4月某日
「ジェンダー史10講」(姫岡とし子 岩波新書 2024年2月)を読む。著者の姫岡とし子は1950年生まれ。73年奈良女子大学理学部化学科卒、80年フランクフルト大学大学院修士課程修了、84年奈良女子大学大学院博士課程修了。立命館大、筑波大、東大の教授を経て現在は東京大学名誉教授。専攻はドイツ現代史、ジェンダー史。ジェンダーとは、アメリカのジョーン・W・スコットによると「身体的性差に意味を付与する知」と定義される。よく分からないが本書を読むと〈身体的性差〉つまり男女の性別によって、差別が行われて来たことがわかる。たとえばフランス革命の人権宣言(1789年)は普遍的な人権が宣言されたものと思い込んでいたが、本書によると「ここで言及される人間とは男性市民のみ、しかも「人権宣言」の採択当時は有権者の男性のみをさし、女性や無産者は含まれていなかった」という。現在放映中のNHKの朝ドラは戦前期に弁護士資格を取得し、戦後は家庭裁判所の解説に尽力した女性の生涯を描いている。その前の朝ドラ「ブギウギ」は夫を失いながらもブギの女王として舞台に映画に活躍した笠置シズ子をモデルにしている。朝ドラは女性を主人公にしたものが多い。ジェンダーの視点から朝ドラを分析したら面白いかも。

4月某日
「日独伊三国同盟-「根拠なき確信」と「無責任」のはてに」(大木毅 角川新書 2021年11月)を読む。著者の大木毅は「独ソ戦」(岩波新書)で新書大賞を受賞。立教大学史学科出身で同大学院博士後期課程単位取得後満期退学後、ボン大学に留学。ドイツ近代史が専門だが、日本の太平洋戦争に至る政治過程にも詳しい。本書によると1940年(昭和15)年9月に調印された日独伊三国軍事同盟と、同じ時期に実行された日本陸軍の北部仏印進駐によって、アメリカの対日姿勢は硬化し、太平洋上の対決へと突き進んでいく。日独伊三国同盟を推進したのが当時の外務大臣、松岡洋右である。松岡はベルリンで三国同盟に調印した後、ソ連を訪問しスターリンとも会談している。松岡は三国同盟にソ連を加えた四国同盟で米英と対抗したかったのだ。中国大陸で泥沼の日中戦争を継続する一方、太平洋でアメリカと戦端を開くなど、今から思えば無謀の一言に尽きる。しかし現実は本書の副題にある如く「「根拠なき確信」と「無責任」の果てに」太平洋戦争に突入する。現代のロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻を見るにつけ、また最近の自民党政治を見るにつけ「根拠なき確信」と「無責任」が横行しているように思うのだが…。